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四神倶楽部物語

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 いやそれがねえ、龍斗、その後、不思議なことがあったんだよなあ。
 ある日、回覧板が回ってきてね。それを、佳那瑠を驚かしてやろうとふざけてね、隣の佳那瑠の部屋へ玄関から持って行ったんだ。俺はピンポーンとチャイムを押し込んで、「こんにちは、回覧板でーす」ってね。そうしたら、ご苦労様です、って言いながら出てきたんだよ、中年のオヤジが。

 男はニコニコしながら話すんだよな、「ああ、お隣さん、確か3ヶ月ほど前に引っ越して来られたのですよね。私はここで単身赴任をしてもう3年になります。隣同士ですから、何かあればよろしく」ってね。俺はもうわけがわからなくなったよ。

 だってそうだろ、今確か、佳那瑠は隣の部屋でテレビを観てる、はずなんだけど。俺は「あのう不躾(ぶしつけ)で失礼なのですけど、今、誰か女性の方が部屋でテレビを観ておられませんか?」って、思い切って訊いてみたんだ。そうしたらだぜ、そのオヤジがね、大きく笑いながら言うんだよ。「まあお隣さんも、可笑しなことをおっしゃるもんだ。まっ、お近付きに、ビール一杯でも飲んでいきなはれ」と。

 こっちも部屋の中がどうなっているのか知りたくて、上がらせてもらったんだ。だけど部屋は散らかってるし、女性なんていないし、それにね、禁断の扉がなかったんだよ。俺の部屋と繋がってるはずの、あの禁断の扉が。そしてもう一つの、向こうの部屋へと繋がっているはずの第二の禁断の扉も。そのどちらもが、どこにもないんだ。

 これには俺も慌てたぜ。それでビールを一口だけ頂いて、急いで部屋に戻ったんだ。そうしたらね、俺の部屋の禁断の扉はいつものように開かれたままだし……。扉の向こうの部屋では、佳那瑠がゆったりとテレビを観てたんだ。

 俺はもう世の中どうなってるのかさっぱりわからず、ぼーと佳那瑠のうしろで突っ立っていたら、佳那瑠がぽつりぽつりとね、呟くんだよな。「良樹さん、お隣さんのお部屋にお邪魔したのね。それでわかったでしょ、そういうことなのよ」ってね。

 そういうことがどういうことなのか、俺は理解できず、まさに茫然自失。すると佳那瑠がそっと俺のそばに寄り添ってきてね、「もういいんじゃないの、どんな世界で生きようと。だって良樹さん、あなたは第一の禁断の扉を開けてしまったのだから。さあ、私を思い切り抱いてちょうだい」ってね。
 俺はもうどうなっても良いと思うようになってしまってね、何か狂ったように佳那瑠を抱いてしまったんだ。


作品名:四神倶楽部物語 作家名:鮎風 遊