四神倶楽部物語
そんな男女の交わりが終わってから、佳那瑠が俺の腕に抱かれながら、切なそうに耳元で囁いたんだよなあ。「ねえ良樹さん、教えて上げようか」って。
それで俺は、佳那瑠の髪の毛を撫でながら、「教えてくれよ」って迫ったら、教えてくれたんだ。
「私たちが今いるここは、二つの禁断の扉の間でしょ。だから現実とあの世の中間にあるニュートラルな世界なの」
佳那瑠からの突然の、こんな話しって、よく理解できないだろ。それでただ首を傾げてたら、誘ってきたんだ。「今の私たち、中途半端なの。永遠の愛はね、もう一つの禁断の扉の向こうにあるのよ。良樹さん、永遠に私のことが好きだったら、そこにある第二の禁断の扉を一緒に開けましょうよ」ってね。
これにはホント参ったよなあ。だって山路隆史のことがあったろ。だから何も答えずに、じっと黙ってたんだ。するとね、佳那瑠は何を思ったのか、ホント、奇妙奇天烈(きみようきてれつ)なことを訊いてきたんだよ。龍斗、それ知りたいだろ。教えてやるから、ようく聞けよ、佳那瑠が言ったんだぜ。「良樹さん、あなたの同級生に高瀬川龍斗っていう人がいるんでしょ。彼、イケメン?」ってね。
龍斗、お前は同期の桜で親友だろ、当然悪くは言えないよな。それで、「ああ、もちろんさ。あいつは男が男に惚れるような男で、爽やか系のハンサム男だよ」、そう答えておいてやったぜ。
私は背筋に悪寒が走りました。「おいおい槇澤よ、勝手に俺の名前を出すなよ」何はともあれ、文句を付けました。
いやいや、俺が言い出したのでなくって、佳那瑠が勝手にお前の名前を出してきたんだぜ。その上にだ、佳那瑠はよほど龍斗、お前に興味があるようなんだよなあ。
なぜなら、その後、「龍斗さんて、良樹さんよりもっとイケメンなの?」って、しつこく問い詰めてきたんだ。そんなのやっぱり親愛なる友人を立てなきゃダメだろ。「そりゃ誰が見たって、龍斗の方が俺よりはイケメンだし、仕事もできるし、超カッコ良いナイスガイだよ」そう伝えておいてやったぜ。
私はここまでの槇澤の話を聞いて、もう頭にきました。ビールをぶっかけてやろうかと、グラスを手にしました。すると槇澤は慌ててに止めに掛かってきました。
おいおいおい、龍斗よ、勘違いするなよ。これは、お前が新企画のために何か面白いネタがないかなあと言ったものだから、こんな妄想の作り話しをしてやっただけだよ。お前に感謝こそされ、ビールをぶっかけられる筋合いではないぜ。
私は、こんな槇澤の言葉で、はっと我に返りました。そうだったのです。これは単に、槇澤の妄想だったのかと。