四神倶楽部物語
「それで、やっぱり連れて来たのか?」私は槇澤の顔を覗き込みました。
ああ、もちろんだよ。俺は早速山路に電話を掛けてね、アパートに来てもらったんだ。というのも、俺は佳那瑠に惚れてしまってたからね、早く決着を付けさせたかったんだ。
当然二人は、よく知っていた風で。俺は、あまり邪魔をしてはいけないと思い、というか、佳那瑠に早く決着を付けて欲しかったものだから、特に口出しはしなかったんだよ。
佳那瑠はね、山路を自分の部屋に連れて行って、何か話し込んでるようだったなあ。だけど、ちょっとした会話が洩れ聞こえてきてね。
「隆史さん、私を永遠のものにしたいと約束したでしょ。だけど、この世界を知ってしまって怖くなったのね。それで私を裏切り、元の世界へと逃げて行ってしまったのよ、あなたは」どうも山路は言われ放しのようだった。
「だけど元の世界では、あなたを満足させる女なんていないわよ。だって私が住んでる世界を知ってしまったから」佳那瑠は山路を追い込んで、有無も言わせぬ様子だった。
「こうなれば、もう一つの、そう、第二の禁断の扉を開けて、誰かが待ってる向こうの世界へ行ってみたいでしょ。さっ、そこの扉を開きましょ、私が道案内をするわ」
佳那瑠がなぜか熱っぽく山路を誘っているんだよなあ。その挙げ句に、「槇澤良樹さんを紹介くれたのは、あなた、山路隆史さんよ。私、良樹さんが好きになってしまったわ。あなたもどうするか、決断の時よ」と凄(すご)んでるようでもあったんだよなあ。
それで、俺は心配になってきてね、そっと佳那瑠の部屋へ入って行ったのだけど……。まさにその瞬間だった、二人がね、佳那瑠の部屋の反対側の壁にある禁断の扉を開けてね、入って行ってしまったんだ。そしてバシャンと扉が閉まってしまって、あとの祭りさ。
思えばそうなんだよなあ。俺の部屋との禁断の扉はいつも開けっ放しだった。だけど佳那瑠の向こう側の禁断の扉はいつも閉じられていたんだ。俺は佳那瑠がそれを開けたのを一度も見たことがない。だけど二人が、その中へと突然消えて行ったんだ。これには驚いたよ。