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月の依る辺に

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「んで、目を合わせた理由だけど、人間の精神ってのは外にあるもんじゃなくて、中にあるものらしい。だから外にいる俺には普通見えないんだけど、ただ一点、目だけは精神への繋がりが視える。だから目を見つめるわけ。そんで、その先にある精神を見て、異常があるかどうか探すわけなんだが、あんたに関しては、今のところなんの異常も見当たらなかった。だから、あんたの記憶障害の原因も解決法もわからない。こういうこと、わかった?」
大分駆け足な説明かな。てか、結論もなんかあっさり言っちゃったし。
…まぁ、これ以上言えることがないってのが本音だけど。
「…そっか、結局わかんないままか。はぁ~…。」
あからさまに落胆して肩を落とす。
「役に立てなくて悪いな。俺にできるのはこれくらいだから、もう術はない。」
慰めるつもりなんてないから、素直に話す。
「いや、ありがとう。なんか、付き合ってくれて。一応もう一回、病院に行ってみる。」
「そうですね。風華先生には私が連絡をしておきましょう。あまり無理をしないように。また何かあったら気軽に相談に来てください。」
俺も別れの挨拶をして、保健室から出ていく彼女の後姿を見送った。
静かに扉が閉まり、再び密室になる。俺は十分に時間が経ったあと、鳴澤さんを見る。
いつものように、静かに微笑みながら佇んでいる。
…やっぱ心を読まれているような気がしてならないな。
「…先生はどう思いますか?」
あえて、遠回しに訊いてみる。
「彼女の原因ですか?」
頷かずに、ただ見つめ返す。それだけではないから。
「…なるほど、それも含めて、ですか。
私はおそらく、君と同じ事を考えています。なぜなら、私も君と同じモノを感じましたからね。」
これだけ聞くと意味がわからないが、言いたいことは不思議と理解できる。
「つまり、先生も――」
「――ええ。私も彼女の在り方には疑問を感じています。
君に彼女のことを頼む前に、私は既に何回か彼女と話をしています。そのときに一度だけですが、今日のようなときがあったんです。空気は澄み切っていて、話しかけてもこちらを見るだけで何の反応もしない、まるで赤ん坊みたいでした。ですが、少し経つと、また普段の彼女に戻るんです。どういうことかはわかりませんが、おそらくはあれが彼女のいう“記憶の消失”なのでしょう。
君はどう思いますか?彼女のあの状態について。」
正直何もわからない。が、さっき印象に残ったのは、
「二重人格、みたいに感じましたよ、俺は。正しくないけどそれが一番近い気がする。
…そう、二重人格の片方が“無い”感じですね。矛盾してるけど。」
彼女は自分という意識がなかったし、意識が戻った後も、それを自覚してなかった。
あれを彼女は認知できていないんだ。
「なるほど。白澄明菜という人格と無人格の二重人格、ということですか。もしそうだとするなら、君が彼女を視て、健康そのものだと判断したのは当然ですね。」
「?どういうことっすか?」
「二重人格というのは人格を交換するものなんです。つまり、彼女の精神という器の中に更に異なった二つの器があり、表に出た方が彼女の肉体を支配している、ということになります。君が視たのは正常に機能している白澄明菜なんですよ。その器自体には欠陥はなくて、その器によって隠されたもう一方の器に欠陥があるのかもしれない。原因があるのなら、そちらにある可能性の方が高いでしょう。」
なるほど。確かにそれは考えられる。
「じゃあ、白澄が、あのボーっとした状態のときにやんないと意味ないってことですか…。はぁっ…。」
「ん?どうして溜息をつくんです?」
「いや、だって、それってもう一回俺があいつを視るってことでしょ?
面倒だし、嫌だし…」
項垂れる俺。…正直、心底面倒だ。
…だが、面倒な理由はそれだけじゃない。なんか、おかしいんだ、彼女は。
「そんなに嫌ですか?可愛いじゃないですか、白澄さん。君のタイプじゃない?」
またスットボケたことを言って。解ってるくせに、この野郎。
「まぁ、あくまで推測ですから。今は様子を見ましょう。他に何か手段があるかもしれないですしね。」
いや、ないから俺のところに来たんじゃないのか?
「はぁ、とりあえず今日は帰ります。なんか疲れたし。」
「ふふ、お疲れ様。」
鳴澤さんの苦笑に見送られて、俺も保健室を出た。



作品名:月の依る辺に 作家名:高崎 彰悟