死亡代行
死を金に替えた俺は、その金を使って豪遊した。かなりの大金だったので、死ぬまで使い切れるかを心配していた。
だが、そんな心配事は、死への恐怖が現れるとともに消え失せた。いつ死ぬかがわからない恐怖心が、俺を蝕むのだ。これが死刑執行を待つ死刑囚の心理状態なのだと知った。
俺は、「死の売買なんて嘘だ。俺はからかわれたんだ」と自分を納得させようとしたが、目の前にある大金が真実であることを物語っていた。警察に言っても、相手にしてくれないだろう。
そこで俺は、余っていた金を持って、死亡仲介業のあの男の元へと行った。
ログハウスの死亡仲介業は営業中だった。俺はそれを見て、一安心したが、
「全額を返金されたって、契約の撤回はできませんよ?」
男は、俺の顔を見るなりそう言った。俺は、泣きながら土下座したが、無理の一点張りだった。
「第三者に転売することは可能ですよ」
男はそう言うと、転売をするための書類を俺に渡した。俺は、何度もお礼を言うと、ログハウスを飛び出し、自分の「身代わり」を探すことにした。
血眼になって「身代り」を探したが、なかなか見つからなかった。自殺志願者を見つけ次第、死の転売を持ち掛けたが、相手にしてもらえなかった。そのあと、その自殺志願者が自殺したときなど、どうせ死ぬのなら買ってくれれば良かったのにと、俺は激怒した。
半分あきらめ状態の俺は、居酒屋に入った。焼け酒というやつだ。俺の隣りでも、一人のしょぼくれたおっさんが焼け酒を飲んでいた。ただ、そのおっさんは、金払いがいい俺を睨みつけていた。そのとき、俺は嫌な予感がした。
居酒屋を出てすぐの寂しい夜道で、俺の予感は的中してしまった。さっきのおっさんが、大金の一部が入った財布をひったくろうとしていたのだ。
だが、俺はまだ20代で、おっさんは初老だったので、おっさんはひったくりに失敗し、俺はおっさんを地面に押し付けた。