死亡代行
「会社が潰れてしまうんだ!!! 見逃してくれ!!!」
おっさんは泣き喚いた。俺は、おっさんから事情を聞いた。
このおっさんは、吊崖(つりがけ)という名前で、町工場の社長らしかった。しかし、不況の影響で倒産寸前らしい。金欠に困った吊崖は、俺から金を盗もうとしたわけだ。借金を返せなければ、自殺するつもりらしい。
吊崖が自殺志願者であることを知った俺は、さっそく死の転売を持ち掛けた。借金の返済の代わりというわけだ。
俺の話を聞いた吊崖は、泣き笑いをしながら、転売に応じてくれた。
転売がうまくいき、俺は死の恐怖から解放された。吊崖の借金の返済分を差し引いても、金はまだ余っており、まだしばらくは豪遊できそうだ。
だが、それからしばらく経ってから、どうやって住所を突きとめたのかは不明だが、吊崖が自宅にやって来た。
「助けてくれ!!!」
吊崖は俺に向かって叫んだ。どうやら、俺と同じように死の恐怖にやられているらしい。オレは、転売すればいいということを教えてやったが、
「そんな時間があるもんか!!!」
吊崖は泣き叫んでいた。
そのとき、自宅の前に黒塗りの車が止まり、車から二人組の屈強な男が降りてきた。どうやら、あの二人がお迎えらしい。
「死神が来た!!!」
吊崖はそう叫ぶと、自宅に逃げ込もうとした。しかし、事無かれ主義の俺は、匿うのが嫌だったので、自宅から追い出してドアを閉めた。
「おまえは人殺しだ!!!」
吊崖がドアをバンバン叩きながら叫ぶ。
俺はドアのドアスコープから外を見ていた。吊崖は二人組の男に捕まると、車に乗せられた。そして、車はどこかに走り去った。
翌日の朝刊に、死刑執行の記事があった。執行されたのは一人だけだったので、吊崖が代わりに死んだ「死刑」だろう。
元々の死刑囚は、子供を何人かレイプして殺した奴だったのだが、どうやら親が大金持ちだったらしい。死亡仲介業のあの男が言っていたが、元々の死刑囚は「身代り」の名前と戸籍を手に入れ、自由の身になれるらしい。だが、遺族でもなく、子供もいない俺には、どうでもいいことだった。