Magic a Load
暗闇でうっすらしか解らないがアンディには解っていた。ジェイコブは頬も真っ赤に染めてまで自分を抱きしめているのに自分はなんて嫌な態度を取ったのだろうと顔を俯かせた。
ジェイコブは溜め息をつき言った。
「しょーもない事ばっか考えるんじゃねぇよ?今はとりあえずここから脱出する事だけを考えよう。とりあえずあの奥まで進んでみよう。出口があるかもしれねぇ!」
「うん・・。えっと・・・ごめんね、ジェイコブ・・・。」
アンディはそう言残しジェイコブの手を再び握り暗闇の奥へと進んで行った____。
暗い洞窟のような場所で大きな黒い物体は体より小さな豪華な椅子に肘をつき偉そうにすわり足を組んでいる。体はほとんど真っ黒い色で全体的にごつごつしている。
退屈そうに黒い物体は溜め息と鼻息を荒くついた。
「ええい、退屈だ。おい、貴様・・あの女はどうだ?いい獲物になっているのか?
そうだな、退屈だからわしの前に女を連れて来い。」
長い爪の人差し指を自分の目の前に居る中くらいの黒い物体に話かけた。
中くらいの物体は頭を下げるとすぐに女を乱暴に大きな黒い物体の前へと連れこさせた。
「ゴブリン様、どうぞ。」
中くらいの物体はお茶かお酒を渡すように女を巨大なゴブリンに差し出す。
巨大なゴブリンは大きな手で女の体を握り自分の目の前に持ってきた。すると巨大なゴブリンは女の柔らかい頬を唾液混ざりの舌でベロリと舐め回した。
女は甲高い声を出したかったがその声すらでないほど怯えきっている。
巨大なゴブリンは女が着ている服が珍しいのかいろんな場所を長い爪で色々と探っていた。
まるで小さい人形で遊んでいるように巨大なゴブリンはさぞ喜んでいた。
そんな事も知らずシン、リチャード、ディビットはずぶ濡れでツリーハウスに向かった。
結局、雨に遭遇してしまったのだ。
ツリーハウスに入るとずぶ濡れの3人を見たバーバラはリチャードとディビットにタヲルを渡しシンのはバーバラ自身がタヲルで拭いた。
ナンシーは首を傾げおっとりした声で聞いた。
「えっと、後の3人は?」
ナンシーの言葉にリチャードは表情を曇らせ泣き出しそうな顔をタヲルで隠しながら唾を飲み込み言った。
「・・・これから・・探しに行くんだ。・・・みんなで・・・・。死んでるわけではないから・・・。絶対に。それだけは・・・ない。」
ナンシーは不安げにニックを見つめるとニックは肩を竦めツリーハウスにあるニックのベッドの方へと向かいそこで何かあさりはじめた。
ディビットとシンは顔を見合わせ不思議な表情をし髪の毛をタヲルで拭きながらニックの方に視線を向けていた。
ニックは埃まみれになって現れた。その埃は白く髪の毛についていて出てきた時は此処に居る誰もがニックの事を"魔法使い"のようだと思っただろう。
ニックは手に持っている物を懐かしがる顔つきで見ていると自然に笑みも零しながら何処か楽しげに言った。
「此処にある物は"本物の魔法道具"とはいえないが、昔、俺が中学生の頃に亡くなった爺さんの"大切な物"だよ・・。俺らの爺さんも相当変わった人だったけど。
な?ナンシー。」
ナンシーは不安げな顔のままそっと頷いた。
ニックが手に持っている物をシンとディビットは興味津々に覗き込き込むとシンは一つの杖を手に持って言った。
「これ、これなんてすげーんじゃねぇ?何か凄い使いこなせそうじゃん?」
「でも、"敵"を倒せそうなモノは無いわね。」
バーバラは髪の毛を拭いた人物のタヲルをたたみまるで子供に問いかけるような口調でシンに言った。
シンは少しむっとした表情で杖をぶんぶんと振り回しながら言い返す。
「あんなぁ!もしかしたらこの先で役立つって考えをしないのかよ?」
「だって、おもちゃのようなモノじゃない、敵が強かったらこんな杖・・・・」
その先を言おうとしたがリチャードの視線を感じバーバラは黙りこんでタヲルをたたみ続けた。
ディビットは眼鏡の中心を指先でくいっと軽く上げまるでみんなのリーダーになったような口ぶりで言った。
「とりあえず、今、俺たちがする事は食料などを持ちまずは居なくなった"大切な友人"のジェイコブ、アンディとサラの行方を追うことにしよう。
そうだな一旦みんな自分の家へ戻ってそれからもう一度、ニック達の家の前に集合しよう。」
そう言うとみんなそれぞれ自分の家へと一時、帰宅する事にした。
シンは家へ戻ると自分の部屋を暫く見つめていた。シンは頭をぽりぽりと搔き一人ポツリと呟いた。
「やばい・・俺は何を持っていけば・・・。」
シンは特に持っていくものが無い事に気がついた。とりあえず、シンは昔から使っている机に向かい一番上の引き出しを開けるとそこには一枚の写真があった。
大学に入ってまもない頃にみんなで撮った写真がある。その写真に写っているリチャードの顔を見るとシンは思い出し笑いをした。
「ああ、コイツ・・こんな顔してら・・・。そういえばこの頃はまだあんなに抱き合うほど仲良くはなかったもんな。」
次にシンの目に映ったのはバーバラとディビットと3人で写っている写真だった。
3人仲良く肩を組み満面な笑顔で写っている。
「これは確か・・・高校卒業後の写真だよなー。とりあえずこの二枚だけでも。」
シンは独り言をいい肩を竦めると上着を羽織直しドアに向かうともう一度自分の部屋を見渡し部屋を出て家からみんなと待ち合わせしている場所へと向う。
みんなは色々な荷物を持ち既にニック達の家の前で待機していた。
ディビットはリーダーシップにでもなったようにシンに声をかけてきた。
「お前、荷物は?」
シンはにっと笑いジャンパーのポケットに手を突っ込みがさつに二枚の写真を取り出しディビットの目の前に寄せ見せた。
ディビットは眉間にシワを寄せその写真を目を丸くさせ見つめすぐに深い溜め息をついた。
「・・この馬鹿野郎・・・。何で写真なんだよ!しかも俺の一番嫌な頃の写真じゃないか!!!」
そう言うとシン以外全員写真を覗きこむ。がニックは首を傾げ不思議そうに言った。
「そう?今のディビットとほとんど変わらないようだけど・・。何処がどう違うんだ?」
「今の方が少しハンサムになったようには思えるわね。」
バーバラはディビットの過去を知っているような口ぶりでくすくすと笑いながら言った。
リチャードは不思議そうにシンに問いかける。
「何?ディビットは昔、人じゃなかったとか?」
リチャードの言葉に堪えきれずシンとバーバラだけは高笑いしはじめた。
シンが口を開こうとするとディビットは眼鏡を光らせシンの胸倉をぐっと掴み睨みつける。シンはまぁまぁと手でジェスチャーすると少し間をあけてから言った。
「いやな、特にこれと言った話ではなないけど本人にとってはとても重要な事らしい。」
「ディビットはね、昔・・フランシスと同じくらい根暗だったのよ。
今の彼からじゃ想像つかないくらい。それはもう・・・ね?」
バーバラがシンに続いて言った。ディビットは赤面していたがニック達は肩を竦め顔を見合わせただけで何も言わなかった。
しかし此処の場にジェイコブやアンディが居たらからかわれたに違いないとディビットだけは心の奥底で思っていただろう。
作品名:Magic a Load 作家名:悠華