DEAD TOWN
「あれ、ジェイクは?一緒じゃなかったの」
家の前でがたいのいい黒人の男と談笑していたエリナが、沢山の荷物を抱えて帰ってきた柊に気付き話し掛けてきた。
「あっ?そういえば・・・・・・」
柊はジェイクのことをすっかり忘れていた。買い物に夢中になっていたのだ。そのことを、エリナに言われるまで気付かなかったとは。ここで、唯一の味方かもしれないのに。
バーイ、エリー。エリナと談笑していた男が、気を使ってなのか行ってしまった。別にいいのに。柊は内心で舌打ちをした。
「で?ジェイクは?」
「さあ〜な」
肩を竦め、素っ気無く答えた。
「は〜あ?何、その態度。ムカつくんだけど」
こっちこそ。と言いそうになるのを堪え、「悪い。買い物に夢中になっていて・・・・・・」と素直に謝った。女と言い争うことよりも、早くシャワーを浴びて着替えたかったのだ。腕を組み考え込むエリナの横を通り過ぎ、柊は急いで玄関に向かう。
んん?俺に何か言ったのか?エリナの声が聞こえたような気がした柊は、ドアノブを握ったまま後ろを振り向き女を見やった。
「聞こえなかったの?探してきて、って言ったのよ」
「さ、探してきて・・・・・・って?」と柊は言葉を詰まらせた。エリナの命令口調に、ここは穏便に済ませようと思う気持ちが失せる。
「子供じゃないんだから、その内帰ってくるんじゃないのか」
負けじと、柊も言い返す。売り言葉に買い言葉となってしまった。どうしてこんな小娘に苛々するのか、柊は不思議だった。大人気ない自分も、また腹立たしい。
「用事があるの。だから、探してきて」
「そんなに急用なのか。なら、自分で探した方が早いんじゃないのか。俺は、まだこの街のことはよく知らない。探すったって、さっきの商店街ぐらいだ。でも、そこにはジェイクはいなかった」
「もう、いい!あなたと話してると苛々する。じゃ」
そう言って、エリナが行ってしまった。
苛々って、それはこっちのセリフだ。そう呟くも、面と向かって言えないもどかしさ。柊は、苛立ちをぶつけるように玄関ドアを思い切り閉めた。
「どうした?シューゴ?」
けたたましい音にビックリしたのか、ジェイクが現れた。
「ジェイク?あ、いや・・・・・・。なんか、ドアが・・・・・・」と笑って誤魔化した。「あっ、そうだ。アイツがお前を探してたぞ」
「アイツ?あ・・・・・・、エリナね?」
「あ・・・・・・。そう、アイツが・・・・・・、なんか、急用だって言ってたけど」
「嘘ね」
「嘘・・・・・・?」
「そう、lie」
「なんの為に?」
ジェイクの言葉を聞いて、怒りが込み上がる。おちょくられている。そう思えて仕方なかった。そして、それに踊らされている自分にも。
「嬉しいんじゃないんですか?」
「う、嬉しい?そんな、馬鹿な話しがあるか」
「ホントです。久し振りに日本人に会えて。でも、エリー、感情表現下手ね。だから、そんなふうにしか出来ない」
「だからって、どうも納得がいかない」
「そうね。でも、シューゴのこと、危険じゃないって思ったから、手錠を外して自由にさせた。でばければ、まだベッドの上。そして、僕の餌食ね」
そう言って、ジェイクが笑う。
笑い事じゃない。そう言いたかったが、柊は我慢した。ここに来て我慢の連続。この歳で、こんな人生が待っていただなんて。ただ真面目に生きていたはずなのに、どこでどう道を間違えたのか。思ってもみなかった運命の悪戯に、いつまで翻弄されるのか、と柊はうな垂れた。