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DEAD TOWN

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「ハ〜イ、ジェシナ」
 エリナが店先に座っているジェシナという老女に手を上げ軽く挨拶をする。老女は瞑っていた目を開け薄く微笑む。そして、また目を閉じた。
 路地裏に突如現れた商店街。それは所狭しと店が連なっていた。人の波は絶えず途切れることはなく、活気付いていた。
 エリナがさっき挨拶した老女の店に入り、何かを物色し始める。食料品、日用品、そして、日本ではあまり目にすることのない危険物などが不用心にも乱雑に置かれていた。
「何か欲しい物があったなら、適当にどうぞ」
「どうぞ、と言われても、金は持っていない」
 そういえば、俺の持ち物はどこに消えたんだ。ふと、柊は思う。この街のどこかにあるのか。それとも、マンションにでも置き忘れてしまったのか。しかし、家に、とは考えにくい。自分の姿を見る限り、家にいるような格好をしていない。じゃ、どうして―――。そう考えた時、目眩が襲った。脳が思い出すことを拒否しているのだろうか。柊は近くにあった棚に掴まり、倒れそうになるのをかろうじて堪える。しかし、考えずにはいられない。自分はどうやってこの街に来たのか。この街に来てどのくらいの時間が経っているのか、と―――。
 不安からくるストレスなのか、無性にノドが渇いていた。何か飲みたい。けれど、金がない。苛立ちは増し、更にノドが渇いて仕方がなかった。
「何も欲しい物ないの?なら、行くけど」
 エリナが柊の目の前にあったペットボトルの水を手に取り、おもむろにそれを飲んだ。
「お、おい。いいのか、勝手に」
「何が?」
「何が?って・・・・・・。それって、万引きじゃないのか?」
「万引き?盗んできた物を盗っても、それも万引きっていうの?」
「盗んできた物・・・・・・って?」
「ここにある品物は、全て盗品よ。だから、皆好き勝手に使っているわ」
 盗品・・・・・・。そう呟き、柊はもう一度商店街を一望する。そういえば、何か違和感を生じると思っていたら、そういうことか。勝手に物を取っていく者もいれば、それを補充するように新たに品物を置いていく者。この街は、窃盗団の集まり、というのだろうか―――。
「どうでもいいけど、服ぐらい着替えたら?そんなんじゃ、この街でも、やっぱヘンよ」
 エリナにそう言われ、改めて自分の服装を見てみる。殴られた衝撃なのか、衣服は所々破(やぶ)け、その上乾いた血がシミとなってこびりついていた。見るも無惨な姿、と言ってもいいだろう。
「本当に金は必要ないのか?」
「だから、いらない、って」
「しかし、店には人がいるぞ」
「意外にしつこい人ね。疑い深いというか。暇だから、ただいるだけよ。ねぇ、ジェシナ?」
 そう言って、エリナが老女を見た。老女は、先程と同様エリナに微笑んだ。
「じゃ、先に帰っているから。あとは、ご勝手に」
 もう質問は受け付けない、とばかりにエリナは柊に背を向けて行ってしまった。
 置き去りにされた柊は、まず目の前にある水でノドを潤した。いつから水分を取っていないのだろうか。続け様に開けた2本目のペットボトルが、あっという間に空になっていた。なのに、まだ飲み足りない気がする。しかし、ずっとここにいるわけにもいかない。自分に合う服を探さなければならない。そう思った柊は数本の水を手に取る。そして、近くにあった山積みされたリンゴを頬張り、その店をあとにした。


作品名:DEAD TOWN 作家名:ミホ