DEAD TOWN
「外に出たら分かるわ。暇だから、少し案内でもしてあげるわ。どう?行く?」
「あ、あぁ・・・・・・」
柊は曖昧な返事をした。
「何?アタシじゃ不満。なら、ジェイクでも呼ぶ?」
「あっ、いや・・・・・・。お前でいい」
「で、いい?なんかイヤな感じ」
ムッとする女に、柊は内心舌打ちをしながら言い直す。
「い、いや・・・・・・。お前がいい・・・・・・」
「全く、最初から素直にそう言えばいいじゃない。アタシがわざわざ案内してあげる、って言ってんだから」
小生意気な女に、いつかは引っ叩いてやる、という思いが込み上げる。普通であれば、年上を敬い慕う気持ちがなくてはならない。なのに、この女ときたら―――。と思うが、今の若者をみてもそんな気持ちは薄れつつある。自分が、自分が、で生きている者に、何を言っても無駄だろう。柊は、諦めることにした。
「じゃ、行くよ。あっ?そ〜だ。外は危険だから、これは必需品ね」と言って、先程柊が奪い取った銃を女は柊の足元へと投げ捨てる。そして、それと一緒に弾もバラバラと床に散らばせた。「弾の詰め方ぐらい、知ってんでしょ?なら、早くして」
屈辱、とはこういうことなのか。一種の辱めに、やはり柊の心はやり過ごすことは出来なかった。いつかこの銃でこの小娘を殺してやる。いや、今すぐだ。でも、今はやめておこう。そう、今はやめておいた方がいい。今この女を感情のままヤってしまったら、俺は小さな男だと思われる。ある程度寛大さを見せつけてから、ヤった方が気持ちがいいというもんだ。そうだ。この女が俺に慕う気持が出てきた時にヤればいい。その方が、この女の後悔は一際(ひときわ)大きいはずだ。もっと俺を大事にしておけば良かった、と。そして、俺に跪(ひざまず)き許しを請う。しかし、その時は、時既に遅し、と。そうだ。その時まで、俺は大人でいなければいけない。大人として、毅然たる態度で振る舞わなければならない。そうだ。そうなのだ。柊は、そう自分を宥(なだ)め床に散らばった弾をひとつひとつ銃に詰めていく。
「ま〜だ?置いてくわよ。ったく、おじさんだからしょうがないけど、もう少し機敏に動けないもんかしらね。なんかイラつくのよね〜」
柊は堪える。引き金を引かないように。大人だ。俺は、大人。そう自分に言い聞かせ、深く深呼吸をする。が、忘れていた躰の痛みが蘇る。肋骨が折れているのだろうか。ま、肋骨が折れただけで済んだのなら、それはそれで奇跡的なのかもしれない。なんせ、自分は瀕死の状態だったのだから。それに、生活にはあまり支障はないはずだ。あとは、自然に治癒するのを待つだけなのだから。
「柊だ。俺は、柊脩梧だ。お前の名前は?」
「ふ〜ん。なんか、顔にあってんだかあってないんだか分かんない名前ね〜」
「ほっといてくれ。それより、お前の―――」
「早く、行くよ。シューゴ」と柊の言葉を遮り、女は部屋から出て行った。
は、はあ〜?お前、今、俺の名前を呼び捨てにして呼んだのか?なあ?フツー、『さん』を付けて呼ぶもんじゃないのか?なあ?歯を食い縛り、懸命に言葉を飲み込む。でも怒りが収まらない。もう少しで爆発しそうな感情は、思わず引き金を引きそうになるのを寸前で堪えた。
躰の痛みに耐えながら、何度か深呼吸をして冷静さを取り戻す。そして、感情を押し込むようにして銃を女と同じ腰のあたりにねじ込むのだった。