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DEAD TOWN

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「弾が入ってなきゃ、それはただのオモチャ。そんなんでどうしようと思ったの?」
 そう言って、女は愉快そうに笑った。
「う、うるさい!」
 小娘ごときに自分は弄ばれている。そう思ったら、柊は自分の愚かしさに愕然とし情けなくなった。俺より上手だというのか。この小娘が?それとも、俺の心中を先の先まで読めるとでもいうのか。だから、することなすことが全て裏目に出てしまうのか。釈然としないまま、柊は持っていた銃を乱暴に女に突き返す。そして、顔を背けた。
「あげる」
「いい」
「遠慮しなくてもいいじゃない。だって、弾が入ればオモチャじゃなくなるんだし」と、女が笑って言った。
「いい。俺には、そんな物必要ない」
「あら、さっきは必要としたじゃない。なのに、急にどうして?」
「とにかく、俺には必要ないんだ」
「拗ねてるの?子供みたい。でも、おじさんが拗ねてもあんまり可愛くないわね。逆に気持ち悪い」
 そう言って、女は柊の手錠を次々に外し、ベッドから下りる。
「うるさい」
 柊は女から背を向けるようにベッドから起き上がり、自由になった両腕を交互に擦った。どうやら骨は折れてなさそうだ。しかし、打撲やすり傷の痕が躰の至るところにある。俺はいったい何をしたのか。気絶するまで殴られるようなことを。いったい、俺は―――。浅く息を吐き、顔にこびりついた血の塊を指先で拭う。そして、露になった肌を隠すようにシャツのボタンを直した。
「何を考えているの?」
「―――別に」
 まだいたのか。と言いそうになるのを堪え、素っ気無く答えた。
「言っておくけど、いくら考えても無駄よ。あなたは境界線を越えてしまったんだから」
「境界線?」
 柊は女の顔を見つめた。これで何度目だろう。女の顔を見つめるのは。見るたびに、この女が憎らしく感じる。可愛げのない、憎らしい女。この小娘が男だったなら間違いなくぶん殴っているかもしれない。いや、きっと即座に殴っていただろう。
「まだ分からないの?」
「だからなんだ?って、聞いるんだ」
 苛立ちを抑えようとするも、どうしても言葉が荒っぽくなってしまう。どうしてこんなに苛々するのか。
「ここは、東京。なのに、周りを見渡せば外国人ばかり。どうしてか分かる?」
「いや・・・・・・」
「異国人のたまり場だから。それも、ほぼ犯罪者といってもいいわね」
「犯罪者・・・・・・?」
「そう。密入国者が沢山いる街。だから、こうやって銃も簡単に手に入るの」
 そう言って、女は笑みを浮かべ銃で遊び始めた。
 柊は、その女の姿を見て銃に手馴れていると思った。日本にいればあり得ない光景。しかし、これは現実らしい。それも、夢じゃないという事実。どうして俺は、こんなところに迷い込んでしまったのだろう。何を目的に―――。
「ここは日本だ。警察は黙っていないはずだ」
「ここは日本だけど、外国みたいなものね。日本のルールは通用しない。あったとしても、無いに等しい。だって、ここの一角は無法地帯なんだから。警察が介入しようものなら、きっと、大変なことが起きるかもね」
「しかし、そんなことがあれば政府だって黙っていないだろう」
「政府?バカね。日本の政府なんか腰抜けで、介入するわけないじゃない。逆に黙認しているわ。どうしてだか分からないけど。お偉い先生方の間では、『Secret Town』と呼ばれていて、いかにこの街を隠すか躍起(やっき)になってんの。でもね、現実はそんな聞こえのいい街なんかじゃないわ。ここは『Dead Town』。まさに、『死の街』。絶えずケンカや銃声の音が聞こえるの。笑っちゃう。日本じゃないみたい。ま、この街の存在は、一般人が知らなくて当然のことだろうけど・・・・・・」
 ふと淋しさを浮かべる表情をした女。柊は複雑な心境だった。今いる状況、そして目の前にいる女。全てが分からないことだらけで、でもこの街にいる日本人はもしかしたら自分らだけなのかもしれない、と。
「どういうことだ?俺らが知らない街って?この街は、誰が作ったんだ?何の為に?」
「そんなこと、アタシに聞かれても知らないわよ。そんなに知りたきゃ、ジェイクにでも教えてもらえば?躰を使ったら、なんでも教えてくれるかもね」
「ジェイク?」
「さっきの男よ。あなたがお気に入りみたい。だから、ここに連れて来たんでしょ。でなきゃ、あんたなんかとっくの間に死んでいたわよ」
「死んでいた・・・・・・?」
 その言葉に、柊はゾッとする。いくら死を覚悟したとはいえ、やはり生きていることが当たり前であり、自分の死の姿なんか想像すらしたことがない。それも野垂れ死ぬ姿など―――。
「あと、ひとついいことを教えてあげる」
「いいこと?」
「この街に一歩踏み入れた日本人は、もう二度と向こうの世界には戻れない、ということを」
「どういうことだ?」
「言ったとおりよ。私達は、日本にいながらもう日本には帰れないのよ。あなたは秘密を知ってしまったんだから」
「秘密?」
「この街よ。あなたは境界線を越えてしまったの。だから、もう二度と元の場所には戻れない。覚悟を決めるのね。それが出来ないなら、そうね、死ぬしかないわね。死んだら、自由だもんね。どこに行こうと・・・・・・」
 女が遠い目をする。さっきの淋しげな顔は、たぶん柊の向こう側に見える懐かしい故郷を思い出したものなのだろう。自由でありながら、自由じゃない。籠の中の鳥。そんな世界に迷う込み、今まで生きてきたというのか。そして、自分もこれから―――。そんなはずはない!
「どういうことなんだ?元の場所に戻れないってことは?」
「アタシに聞かれても困るし、知らないわ。それに、戻れるならアタシだってとっくの間に帰っているはずよ。元にいた場所にね」
「両親は?友達は?お前がいなくなったと気付けば、皆心配して探すはずだろう。違うか?それに捜索願が出されれば、警察だって動く」
「捜索願?」そう言って、肩を竦め鼻で笑った。「じゃなくて、死亡届、かもね」
「冗談はよせ。俺は本気で話しているんだ」
「Who says such a thing as joke?(誰が冗談で言うと思ってんの?)」
 そう言って、女が銃で遊ぶのをやめる。でも、またすぐに銃で遊び始めた。
「おい、なんだ?なんて言ったんだ?」
「別に」
 時々この女が分からなくなる。人を小馬鹿にする態度。そして、はぐらかすような言葉。この女の真意はどこにあるのか探してみるも、やはり分からずじまい。元々、女心を読むのは得意な方じゃない。でも、それなりに分かっていた、つもりだった。けれど、この女に出会い、女というものが分からなくなった。こんなに扱いづらいものなのか。それとも、この女だけなのか―――。
「他の奴らは?俺たち日本人以外の奴らも、そうなのか?」
「自由に行き来出来るわ。でなきゃ、生活が出来ないでしょ?この街にいる者達が」
 はあ?柊は意味が分からなかった。やはり、混乱している。全ての出来事は初めてのことで、今まで経験したことがない。当たり前のことといったら当たり前のことで、けれどどうしても夢にしか思えない。これは、夢か?夢なのか?俺は、長い長い悪夢を見ている、だけなのか―――。
作品名:DEAD TOWN 作家名:ミホ