DEAD TOWN
4.
「エリナ?本当に、良かったの?」
エリナの帰りを待ち構えていたジェイクが、壁にもたれ腕組みをして聞いた。
「何が?」
「何が?って、それは、エリナ自身良く分かってると思うけどな〜」
「さぁ」
「じゃぁ、なんで行ったの?」
「どこに?」
「シューゴの見送りにね?」
「見送り?違う。あれは、ボスのお墓参り」
「お墓参りね……」
「そうよ。ただの、お墓参り。今日、ボスの命日だったから」
そう言って、エリナはジェイクの前を通り過ぎ、二階へと向かった。
「Lie」
ジェイクが呟いた。
その声に、エリナが立ち止まる。けれど、立ち止まっただけでエリナは何も言わなかった。そのエリナの背中を見つめ、ジェイクが続けた。
「どうして、言わないの?行かないで、って?助けてって、どうして言わないの?」
「言ったからって、どうにもならないことあるでしょ?違う?それは、ジェイクの方が良く分かってるんじゃない?じゃなきゃ、とっくの間にボスから逃げてる。違う?」
そう言って、エリナはジェイクを睨んだ。
「違う!」
穏やかだったジェイクが、声を荒らげた。
「違わない。じゃぁ、ジェイクはボスとは愛し合っていたの?そこに、愛情があったの?違うでしょう。ただの命乞いでしょ」
「君に何を言われても仕方ないね。でも、命乞いとは違う。君だって、たぶんおんなじ気持ち。違う?」
「そんな話なんて、どうでもいい。でも、もうアタシはこの世界から逃れられない。だから、誰かに助けを求めたって無駄よ。それに、あんな力のない男に……。一緒に殺されちゃう……」
「そう?ボクはそう思わなかったけどな。だから、ここに連れてきた。もし君が望むなら、元の世界に帰れるように、って。でも、お節介だったみたいだね」
「そうね。私が元の世界に帰っても、もういる場所はないわ。そんなところに帰って、何をしろっていうの?躰を売るしか、もう生きる道がないっていうのに……」
「でも、ここももう危ないって話、聞いてる?」
「えぇ」
「僕たち、近いうちに身の振り方、考えておかないといけないところまできたらしいね」
そう言って、ジェイクは天を仰ぎ小さく息を吐いた。
「そうね。でも、アタシはこのままこの街と共に消えてもいいって思うの」
「Why?」
ジェイクが肩を竦め、信じられない、という表情をした。
「行く場所がないから」
エリナはそう呟いて、壁にもたれて腕を組んだ。
「それは、僕も同じだよ」
「私たち、どことなく似てるもんね……」
「じゃなきゃ、一緒にこうしていないと思うけど?」
「ねぇ?」
エリナが、ジェイクを見つめた。
「もしかして、アタシの為?」
「What?」
「ボスが死んでからも、こうしていてくれたのは?」
「さぁね…。僕は行くとこもなかったし、ここが一番落ち着く。それだけ」
「そう?」
エリナは、小さく息を吐いて二階へと向かった。
「You must not die,ERINA. please you live(死んじゃダメだ、エリナ。君は生きろ)」
「Will you be so, too(あなたもね)」
そう言って、エリナは自分の部屋に戻った。
ジェイクはそれを見届けてから、リビングのソファーに深く座りカーテンの引いていない窓を見つめた。太陽は空高く昇り、強い陽射しが部屋に差し込む。その陽射しを浴びながら、ジェイクは静かに目を閉じた。そして、エリナとの会話を、また反芻(はんすう)する。似た者同士。だけど、お互いに一つにはなれない。分かち合えない心は、ただただ一緒にいるだけでも分かり合えたと錯覚しながら生きていくだけ。同じ感情を共有し、そして癒されることを待つだけ。決して、離れてはいけない。離れようとしてはいけない。いくら、エリナが拒否してもだ。僕たちは、いつも一緒。そう、ボスが死ぬ間際に、僕に残した言葉。だから、僕にはエリナを守らなければいけない。エリナに、好きな人が出来るまで。いや、エリナに好きな人が出来ても、僕は影でエリナを守っていく。そう、約束した。親愛なる父、ボスに。ジェイクは、ふとボスが息絶えていく様を思い出し、涙を浮かべた。エリナも一人ぼっちかもしれない。けれど、ジェイクもまた一人ぼっちだった。だから、お互いの淋しさが分かり合える。淋しい、と言わなくても、分かり合えてしまうのは、やはり同じ傷を持った者同士だからなのだろうか―――。