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DEAD TOWN

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 なぁ?柊は、女の背中に問い掛ける。「一つだけ、質問をしてもいいか?」
「何?くだらない質問じゃなければね」
「あぁ……、な、なんで、ここは人山って言うんだ?」
 聞きたいことはそんなことじゃない。本当は、お前はずっとここにいる気なのか?とか、一緒に行かないか?とか、俺がいなくなってもいいのか?淋しくないか?ここにいて欲しくないのか?いや、違う。気になる、その墓は誰のだ?とか、ジェイクとはどんな関係だ?ジェイクはゲイだけど、知ってるのか?なんて、考えれば考えるほどどうでもいい質問ばかりが思い浮かぶ。自分はいったい何を聞きたいんだ。聞きたいことが沢山あるはずなのに。なのに、多すぎて、いや、勇気がなくて何も聞けない。けれど、それらを聞いたとしても、たぶん答えてはくれないだろう。それに、それを聞いたとしても、自分には関係のないことなのだ。そう関係ないこと―――。
「読んで字の如く、人で出来た山だからよ。それが何か?」
「人……?」
 そう呟いたまま、柊は女を見つめた。柊の中では一番くだらない質問。それがまさか、返事が返ってくるなんて。
「そう、人。あなたも、ここに捨てられていたのよ。だって、死に掛けていたんだから。なのに、何故だか分かんないけどジェイクが拾ってきたの。迷惑な話よね、全く」
「何?もしかして、ここには人間(ひと)の亡骸が埋葬されている山なのか?」
「埋葬?そんなんじゃないわよ。ただ捨ててあるだけ。あの街はね、毎日何人もの人が死ぬの。なんせ、銃社会だからね。でもね、最初は埋葬してたみたいだけど、そのうち面倒くさくなったんじゃないの?適当に捨てたり、気が向いたら簡単に土を掛ける、って感じかな。けど、あなたはそのまま捨てられてて良かったわね。命拾いしたんだもん。たまには良いこともあるもんね」
 そう言って、エリナはフフッと笑った。
わ、笑いごとじゃないだろ!何、笑ってんだ!そう怒鳴りたかった。けれど、そのことよりもこの山自体が巨大な墓だと思うと、柊はゾッとした。今立っている場所にも、もしかしたら人が埋まっているかもしれない。いや、きっと埋まっているはず。ずっと感じていた違和感。その理由(わけ)が分かってしまうと、どこからともなく漂う獣臭が次第に鼻につき嘔吐しそうになった。と同時に、柊の足はガクガクと震え出す。
「そろそろ時間よ。早く行きなさいよ?」
 あ、あのさぁ……?そう柊が言い掛けたところに、もう質問は受け付けないとばかりに、女が柊に向けて銃の引き金を引いた。乾いた音が幾重にも反響しながら消えていく。辺りは一瞬静まり返ったと思うと、すぐさま日常の生活音に変わった。
 空砲?いや、違う。足元で抉(えぐ)られた土が舞い上がったのだから、やはり実弾か。柊は震える足元を見つめ、そして女に目をやる。と、銃で早く行け、という合図をしながら、また打つ準備をし出した。柊は天を仰ぎ、浅く息を吐いた。心情を吐露出来ぬまま、もどかしい思いがまたひとつ増えた。そんな心で、自分はここから消えなきゃいけない。この思いはいつの日か消えてしまうのだろうか。それとも、永遠に忘れることなく心の片隅に残したまま死を迎えるまで持っているのだろうか。もし、それが後者ならそれが自分に科された罰なのだろう。十字架を背負って生きていく。この女と共に―――。
「俺は、お前を忘れない。だから、いつかまた逢えることを信じてる。お前はイヤかもしれないが、俺はお前の、エリナの、その小生意気な顔を死んでも忘れない。死ぬまで覚えていてやる。だから、生きろ。今を生きろ。俺も、生きる。どんなに惨めな思いをしたとしても、今をがむしゃらに生きてやる」
 そう言いながら、柊は後ずさりをしながら、生きろ、生きろ、生きろ、と女が見えなくなるまで叫び続けた。やがて女が見えなくなると、柊は必死に走った。走って、走って、走って、走って走って走って走って走って走って、走り続けた。息が続かなかった。苦しかった。それでも、柊は走り続けた。全てを忘れたかった。でも、エリナだけは忘れたくなかった。忘れたくない、忘れたくない、忘れたくない。なのにどうして、自分だけ逃げてきた。女のことを思えば思うほど襲ってくる罪悪感。柊は、無力な自分を呪った。あ゛――――!!!そう思い切り叫びたかった。けれど、息が続かない。苦しい、苦しい、苦しい、苦しくて仕方ない。このまま倒れて野垂れ死んでいくのが先か、それとも元の世界まで辿り着けるのが先か。朦朧とする意識の中、柊は果てしなく続く獣道をただただ必死に駆け抜けていた。体力はほぼ限界に達していた。残るは、女への思いと気力だけ。ただそれだけで、あとは何もない。でも、今はそれだけで充分。充分すぎるくらい、充分なのだから―――。



作品名:DEAD TOWN 作家名:ミホ