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忘年会

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明は隆が酒を飲まないことは長い付き合いで知っている。彼と一緒に食事をしても、ビール一本あれば済むような状況で、その後はお茶でも十分盛り上がれるので随分安上がりである。そんな隆が忘年会で二次会まで付き合う気が知れなかった。
「ああ、呑めないものはこの時季辛いな」
湯気のあがる、立ちたてのコーヒーを口に運び愚痴をいった。明は隆の言葉を聞いて一匹狼らしく、呆れたように
「お前相変わらずだなあ、嫌なら参加しなけりゃいいじゃないか」といってやった。
明は嫌な忘年会に参加する隆の気持ちがいつも理解できない。彼本人にも何件かの取引先と職場から毎年誘いは受けるが、そのような席で飲む酒の不味さを知っている彼は、場の雰囲気が暗くなることが分かっていても「ありがとう」といった後に「ごめん、その日は用事があって参加できません」とことごとく断ってきた。勿論そんな用事が有る訳もなく、誘う側も心得ているが礼儀誘っているまでの事。いつも普通に帰宅すると妻と食事をともにし、好きなCDをかけては自分の時間を楽しんでいるだけであった。
「そりゃ、そうだけど、お前みたいにいかんわけよ、付き合いとうのもあろうが」
隆はこれも大切な仕事のひとつなのだと、半ば諦めムードで明に言った。
「お前なあ、仕事って、忘年会ひとつ参加しないからそれで取引できなくなるような相手なら先は知れている。そうは思わないか?」
「そりゃわかるよ、わかるけどやな・・・」
「けど何よ」
「そこは付き合いも大事やろ」
隆は最後の一口を飲むとそう答えた。明も以前は隆同様誘われるがまま参加していたが、あるときバカらしくなりそれ以来付き合いは止めた、しかしだからといって取引先が逃げたわけでもなければ、取引き停止になったこともなく、今までと同じように仕事付き合いは行っているし、職場でも同じように仕事をしている。
「お前な、お前にこんなこと言っても仕方ないけど、自分が付き合いと思っているだけよ。
変わるのが怖いだけ、そんな時間使うなら嫁さんと一緒に食事して、その忘年会の一部はWFPや国境なき医師団にでも寄付したらどう?世の中食えない人一杯いるのに」
明らしく説教めいた言葉を吐いてしまった。もっともそんなことで隆が変わることがないくらい明も十分分かっての話。相手が隆だから言えるまでのことではある。
「まあな」隆は一言答えただけであった。
その話をはぐらかすかのように隆は現在の政治経済やスポーツの話に話題を変え、それに付き合うかのように明は冗談を交え中年男の会話が続いた頃、外はすっかり暗くなっていた。時刻が気になったのか隆は左手を少し上げスーツの袖から出た、ロレックスの時計を見ると慌てたように明に言った
「あかん、こんな時間や。これからいかんとあかんねん」
「こんな時間にどこへ行くの」
「これからまた忘年会やねん、ほいたら・・・またな」
小銭をテーブルの上に置くと軽く右手を上げ、脇に置いた黒い鞄を下げると、いそいそと店を出て行った。
作品名:忘年会 作家名:のすひろ