忘年会
「たく、相変わらずだな・・・」
歩道に出て、急ぎ足で去っていく隆の後姿を窓ガラス越しに追うと、彼は遠ざかり直ぐに見えなくなってしまった。
「明さんは気楽でいいですね」
話が聞こえていたのか、隆の飲み終わったカップを下げにきたウエイトレスが明に声をかけた。
「お前、盗み聞きしてたな」と冗談顔でウエイトレスを睨むと、彼女は笑顔を作る
「盗んだわけじゃないですよ、明さんの声が大きいから自然に耳に入っただけです」
彼女はソーサーに乗ったカップと水の入ったグラスを持ち、前に立っていて明をみた。
あはは、と笑うと
「そうだな、みんなかわいそうだな・・・分かっていても変えられない」
誰に言うわけでもないようにウエイトレスにそう答え、また窓の外に目をやった。
ぼーっと眺めると車道を走る車が点したヘッドライトは光の帯のように流れ、歩道には多くに人がコートやダウンジャケットを着て急ぎ足で通っている。
「さて、俺は帰るとするかな・・・嫁さんの待つ我が家へ」
そういうと立ち上がり、隆の置いた小銭を財布へ入れると
「ご馳走さま」と1000円札をウエイトレスに渡し釣りを受け取ると店を出る。
「二人とも・・・良いお年を」そう声をかけると
「そうですね、明さんも良いお年を」とマスタがーがいい、釣られるようにウエイトレスも「良いお年を」と明に言うと彼は振り向き、片手を挙げるとドア閉め店を後にした。
店内にはアラジンのストーブが青い火を燃やし、その熱で窓は少し曇っていて外にはちらちらと雪が舞い始めていた。
この日も多くの店で忘年会が行われようとし、多くの人がそれに参加しようと道をいそいでいるのだった。