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その後の仁義なき校正ちゃん

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——校正ちゃん3


 校正ちゃんは、僕の頭の中に住み着いていて、コトあるごとに姿を現す——。

 現在、この会議室では、僕の所属する部署(商品開発部・第3企画室)が主催する合同プレゼンテーション——他の部署や素材関係の得意先の人たちなんかも参加している——が行われていた。

 企画室長および僕を含めた同僚5人をはじめ、宣伝部から3人、営業部から2人の当社社員を中心にして、デザイン関連のプロダクションから2人、繊維メーカーからも2人、オブザーバーとして水泳選手1人、の計15人が大きな円形のテーブルを介して向かい合っている。
 こんな規模の大きな会議に参加するのは、入社してすぐに今の部署へ配属されてから初めてのことだった。聞いた話では、もっと大人数が参加するプレゼンも珍しくないということらしいが、まだ数年のキャリアしか持たない僕にとっては、完全に非日常の出来事なのだった。進行役を務める先輩や上司である室長から遠く離れた末席に座っているだけで緊張して、ひとりでに身体が堅くなってしまうのを抑え切れないでいた。

 プレゼンの議題は『競技用スイムウェア・スーツの素材と機能性を活かした、新しい発想による女性用カジュアル水着のデザイン&開発について』という、恐ろしく長ったらしいモノだった。
 詰まるところ「スポーツ用品メーカーだ何だと言ってみても、競技用の水着だけを作って売ってたんじゃ所詮は限られたパイを他社と奪い合うだけで儲けが頭打ちになってしまうのがオチなので、ここらでイッパツ一般の女性にも買ってもらえるような商品を企画してみようじゃあーりませんか」ということなのだろう。

 ——ということで、しゃっちょこばった口調とはここいらでオサラバして、いつものユルくてダラダラした感じに戻そうと思う。まぁきっと、校正ちゃんだって、こっちの方がイイ筈だしね。ん? 今まで目の前にフワフワ浮いてたのに、ドコへ行ったんだ?

 そうだ! 肝心なことを忘れるところだった。校正ちゃんがココに現れたっていうことは、僕の視界の範囲に存在する何らかの文書のドコかに誤謬と言うか訂正箇所と言うか、つまりは間違ったところがあるってことなんだよね。
 選りによって、こんなにたくさんの人がいる——それも直接の上司や取引先の皆さんが——場所で校正ちゃんの姿を目にすることになるとは、まさに悪夢としか言いようがない。

「さっきから、何ソワソワしてんのよ!?」

 僕が視線を向けていたのとは逆の方向から、いきなり声がした。驚きで、心臓がコサックダンスを踊りだしそうになるのを必死で我慢しながら、周りの人に気づかれないように視線だけをそちらへ向ける。こんな、張り詰めた空気が充満している会議の真っ最中に、私語丸出しの口調と内容で話しかけてくるのは、もちろん校正ちゃんだけだ。
 今日は、上下とも黒のパンツスーツにシルバーチェーンのネックレスとパンプスを合わせて、いかにも遣り手のOL風にビシッとクールに決めていた。一応は、出現する場所の雰囲気に合わせた服装を選んでるってことか? 
 まぁでも、ベースが “ぬいぐるみ” だから、格好がどうとかいうのは “それなりに” という条件付きなんだけどね。

(い、いや、ドコ行ったのかな、と思って……)

 声を出さずに校正ちゃんへメッセージを送る(ここでひとつ解説を。校正ちゃんは、僕の頭の中に埋め込まれたデバイスなので、姿も声も周りの人には見えないし聞こえない。また、さっきの校正ちゃんと僕の会話は、テレパシーだとか精神感応とかいうややこしいモノじゃなくて、有線通信——つまり電話みたいなもの——だから、お互いの思考内容がそのまま筒抜けになるわけではない。そこんとこの理解をよろしくどうぞ)。