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オナンの女

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 TAとは「ティーチング・アシスタント」の略称である。大学などにおいて、担当教員の指示のもと、大学院生などが授業の補助や運用支援を行うこと、あるいはそれを行っている学生のことを指すのだ。向学心のあるものにとっては、教員・研究者となるための、最良のシミュレーションの場となる。微弱ながら給与も発生し、学費の経済的支援にもつながるのである。

「えっと今日は――二焦点透視図法の授業ですね。最近は3D-CADやCGアプリケーションの普及でパースを取るのも簡単になったけど、学生の間はフリーハンドのスケッチと手書きの製図で、しっかりと基礎を身に付けてください」

 テキストをちらと見ながら、口早に指示を出す水原女史。

「自分だってまだ学生じゃないか」涼二がぽそりと小声でつぶやく。

 涼二の言う通り、女史は彼らと同じ環境デザイン科の大学院生だった。学業の傍らアルバイトとしてTA業務を勤めている。彼女は院生の中でも優秀で教授連からの評価が高く、ゼミの担当者である有田准教授からも絶大な信頼を寄せられている。卒業後はおそらく講師として大学に席を残すであろうと、もっぱらの評判である。

「南沢(みなみざわ)くん、私語は慎みなさい」

 教壇の女史が涼二を指示棒で射し示す。クラスに緊張感がみなぎる。

「――なーんて固いことは言うつもりはないけれど。少なくとも人が喋っている時は黙って聞きなさいね、学生くん」

 一変してにこりと笑みを浮かべる女史。その瞬間、重い空気の教室にフローラルが花咲いた。それまでの緊張がほぐれたのか、くすくすと笑いだすクラスメイトたち。やはり子供扱いだ。不貞腐れた涼二は、うつむきながらスマートフォンを納めたポケットに視線を落とした。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「しっかし水原女史ってイイ女だよなあ。メガネの似合う知的美人。透き通るような白い肌に、モデルみたいなスラっとした手足。おまけに巨乳と来たもんだ。くーっ、まさにパーフェクツッ! なあ、カレシいんのかなあ。つうかぜったいいるよなあ。なあ、どう思う涼二」

 放課後。早々に製図用具をバックに収納しながら、真也が堰(せき)を切ったように問い掛ける。それに対して無言の涼二。ステッドラー社の製図用シャープペンシルを目の前で指示棒のように振り回しながら、銀色の先端をぼんやりと見つめている。

「なあ涼二。そういえば彼女、さっきお前のこと『南沢くん』って呼んでたよな。なんでいきなり、お前の苗字を知ってるんだ」

「知り合いなんだよ」

 鬱陶しげな口調で答える涼二。

「えっ、そうなのか」

 目を皿のようにする真也。

「ああ」

「むっかつくー、あんな美人と知り合いだなんて。水原女史ってたしかウチら『環デ』の院生だったよな」

「そうだよ。院の四回生」

「んじゃあ、少なくとも俺らより六歳以上年上か。ぬおおおっ、大人のお姉さまに悶絶ーっ!」

 おどけた口調の真也。

「なあ涼二、サークルの先輩とか?」

「違うよ。だいたい俺、サークル入ってないだろ」

「そういやあそうだな。じゃあ合コンで知り合ったとか」

「違うって。俺、そういうの嫌いだし」

「ケッ、イヤよイヤよもスキの内のクセに。このむっつりスケベが。んじゃあ、『精力屋』で知り合ったとか」

 涼二のバイト先の居酒屋の名前である。

「不正解」

「チッ、それも違うか。まさか実のお姉さんとか……」

「苗字が違うだろ」

「だよなあ。ハッ、まさかまさかの年上の彼女ってワケじゃあ――」

「そんなのありえないから」

「だろうな。あんな美人と冴えない涼二じゃあ吊り合いっこないもんな」

 意地悪な表情を浮かべる真也。

「冴えないは余計だよ」

 涼二はそう言い捨てると、シャーペンを製図板の上に無造作に投げ捨て、両手をジーンスのポケットに突っ込んだ。

「で、涼二。結局お前らどういう関係なんだよ」

「彼女は水原珠樹――」

 ポケットのスマホを握り締めながら、涼二は言葉を続けた。

「兄貴の彼女だよ」

(つづく)

作品名:オナンの女 作家名:紅(kou)