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ジュラ外伝

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「貴族じゃないのが、何だってのよ。実際、イリーの方がはるかに有能だし、ここだって彼女がいるからやっていけてるんじゃない。所長なんて、お飾り以外の何者でもないじゃない。それ以前に、そもそも出勤もしてこない時点で、飾り物にすらなってないわ」
「同意−」
 端末に突っ伏したまま休息をとっていたオペレータが、片手をあげた。そのままむくりと体を起こし、心配そうに言葉を続ける。
「それにしてもイリー、大丈夫かしら?」
「確かにね」
 うなずきながら、周囲のオペレータが同意を示す。
「王都に行ったからって、どうなるものでもないでしょうに」
「無茶しなければ、いいけど」
 誰かがぽつりとつぶやいた一言に、周囲のオペレータはしんと静まりかえる。
「さ、みんな。手がお留守になっているわよ」
 イリーから後を頼まれたオペレータが、軽く手を打つ。それを合図に、皆一斉に業務を再開し始めた。
「イリーのためにも、しっかり仕事しないと」
 彼女の言葉に、皆一様に深くうなずくのだった。

 さて、当のイリーはといえば、中央処理室を出てからまっすぐに指定された八番デッキへと向かっていた。デッキにはすでにシャトルが待機しており、いつでも発信可能な状態にあった。イリーは搭乗口へと向かうと、そこで待機していた機長が敬礼するのに片手で応えて声をかけた。
「緊急事態です。最短で王都まで飛んでください」
「最短だと、定期の飛行コースから外れますが」
 機長は戸惑いつつ、返答する。高度に管理化された社会では移動手段に関しても例外はなく、おのおのの乗り物には定められた移動コースが存在する。それを勝手に逸脱することは、通常では許されない行為だった。
「かまいません。私が責任をとります」
 それでも、と反論しかけた機長だったが、イリーの真摯な瞳にじっと見つめられ、瞬時に考えを改めた。
「了解しました。最短ルートで王都に向かいます。イリーは席にお着きください」
「お願いします」
 そういうと、イリーは機内に乗り込み、手近な座席に腰掛けるとベルトを締めた。続いて機長がその脇をすり抜け、操縦室へと向かう。
「緊急案件だ。最短コースで王都へ向かう」
 席に着きベルトを締めながら、機長はすでに待機していた副操縦士に指示を出した。彼は驚きつつもその内容を復唱し、チェックリスト通りに機器の最終点検と始動手順を進めていく。すぐに始動した機関のほどよい振動が伝わってきたのもつかの間、操縦席からの指示に従いエンジンがうなり声を上げ、シャトルはふわりと離陸した。
 王都へのコースをとった直後、操縦室の無線パネルがけたたましい音を奏でだした。
「そら、おいでなすったぞ」
 そういうと機長は、通話スイッチをオンにする。とたん、身につけていたインカムから、やや逼迫した声が聞こえてきた。
「こちら第三空域管制。シャトル三〇八便、どうした? コースを外れているぞ」
「こちらシャトル三〇八。緊急事態につき、本機は王都への最短飛行コースをとっている」
 機長は音声通話を機内へ公開状態に切り替えつつ、そう返答する。しかし、数瞬の後にスピーカから聞こえてきた音声は、ひどく事務的なものだった。
「シャトル三〇八、それは許可できない。事前申請なきルート逸脱は航空法違反である」
 機長は、音声通話を機内のみに切り替え、イリーに伝えた。
「だ、そうですが。どうします、イリー?」
 客席で通話を確認していたイリーは、インカムを手に取ると機長に伝えた。
「私が直接交渉します。つないでください」
「はいはい。了解ですよ、っと」
 機長はそうつぶやきつつ、管制官とイリーの通話をバイパスする。もちろん、通話をモニターすることも忘れていなかった。
 イリーはインカムが外部との通話状態に入ったことを確認すると、管制官に向かって話しかけた。
「こちら、王立第三研究所所長代理のダ・イリーです。聞こえますか?」
「オーケー、イリー。本物よりきれいに聞こえてますよ」
 すぐに、管制からの応答が入る。それを確認してから、イリーは彼に対して告げた。
「先ほど機長が伝えたとおり、緊急事態です。飛行ルートの変更許可を願います」
「イリー、それは無茶だって。事前申請が必要なことくらい、あんただって理解しているだろう?」
 管制官は先ほどの内容を、繰り返す。それでもイリーは動じることなく、言葉を続ける。
「確か、災害時等の緊急事態には、事後承認でよかったと記憶しておりますが」
「そらまあ、そうですが」
 管制官は言葉を濁す。
「でも、王立第三研究所は、災害時の指定機関ではありませんぜ」
 その言葉の背後で、何か確認しているのか端末の操作音が聞こえていた。おそらく、各種の特例事項についての確認を行っているのだろう。しかし、イリーは声色を変えず、それに返答した。
「いえ。私のいっているのは航空法ではなく、王立機関における基本法のことです」
「王立機関法、ですか?」
 管制官は戸惑ったような声をあげる。
「ちょっと待ってください。えーっと……」
 背後で端末の操作音が聞こえてくる。法規の検索を行っていると直感したイリーは、管制官の操作を待たずに口を挟んだ。
「第六四条第八項です」
 一瞬、インカムの向こうで音がやんだ後、改めて端末の操作音が聞こえてきた。そして今度は間髪を置かず、管制官の声が聞こえてくる。
「確かに『王立機関は必要と認められうるとき、すべての法規を超えた活動を行うことができる。』とありますが」
 そう前置きした後、改めて管制官は疑問を口にした。
「この『認められ得る』てのは、いったい誰が認めるんですかね?」
 イリーは、その疑問への答えを口にする。
「王立機関というくらいですから、その監督者でしょう」
 イリーの言葉の意味をしばし考えていた管制官は、その意味することに気づいて驚愕の声を上げる。
「ていうと……まさか、王族!?」
「私はそう認識しておりますが」
 イリーは彼の驚きに、落ち着き払って応じた。
「いやしかし、ちょっと待ってください。それは、確かなんですか?」
 管制官が、もっともな疑問を口にする。
「さあ?」
 イリーは、しれっと答えた。操縦席の方から、会話をモニターしていた機長と副操縦士が吹き出す声が聞こえてくる。
「疑問に思うなら、問い合わせてみたらいかがですか」
 今度こそ、管制官は絶句した。イリーは簡単に問い合わせるように口にしたが、実際に問い合わせるとなると、さていったい、どこに問い合わせるべきなのだろうか。まさか、王家へ問い合わせるわけにもいかないだろう。となると、適しているのは立法府であろうか。しかし、立法府がこれで十分と判断して記載している法令に対して問い合わせを行っても、すぐに満足のいく回答が得られるとは思えなかった。管制官は、自分が分の悪い勝負を挑んでいることを認めざるを得なかった。
「オーケー。わかった。ルート変更を許可しよう」
 管制官は両手を挙げてお手上げのポーズをとりながら、インカムに向かって指示を出した。
「ただし」
と、彼は言葉を続ける。
「あくまでも、後ほど緊急飛行ということが認められるってのが、条件だ。これから立法へ抗議させてもらうからな」
作品名:ジュラ外伝 作家名:かみやま