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ジュラ外伝

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 ナーサとて、一般論は理解している。だがしかし、それでも納得がいかないというのが本心であった。仮に諍いが起こったとしても、話し合いで解決できると考えているのは、平和な時代に生まれ育った彼女ならではのことだったのだろうか。
「甘いのかしらね、私」
 眼下の光景を見つめながら、ナーサはぽつりとつぶやいた。
「それが君のいいところだよ、ナーサ」
 マイルは、隣席のナーサの髪を撫でながら声をかけた。ナーサはその態度にごまかされているような、何か釈然としないものを感じたが、マイルの手が心地よいためひとまず彼の手の動きに身を委ねるのだった。
 どれだけそうしていただろうか。ナーサは瞑っていた目を開け、再び眼下に広がる光景を見渡した。旋回を続けていた機体からは、相も変わらず彼女と同じ名を冠された船体が一望できる。船体後方から三分の一付近に配置された艦橋の前後には、ナーサが強い拒否反応を示している武装を象徴する連装の砲塔が、多数配置されていた。ナーサはそれをじっと見つめ、武装が実際に使われる姿を想像してみる。砲塔の先端からほとばしる光の束、そして次々に破壊されていく船や街、そしてその破壊に巻き込まれた大勢の人々たち。悲鳴を上げるまもなく蒸発していく人の姿を想像したところでナーサは、その凄惨な光景に思わず身震いした。やはり、彼女にとってはどう考えても、兵器というものは嫌悪の対象としかならないのであった。
 そんな彼女の気持ちを知ってか知らずか、マイルは頻繁にナーサをこの〇番ドックへと連れてくるのだった。彼からすれば、将来的にナーサの伴侶となった暁には自分の船ともなる「ナーサ」の完成は待ち遠しいものであったし、純粋にその建造過程に興味があったという理由もある。また、ナーサをここに連れ出すことで、彼女の兵器嫌いを克服させようという意図もあったのだが、これに関してはいまのところさっぱり進展がないというのが実情であった。
 一方、ナーサにしてみればマイルの気持ちはよくわかっていたし、できることなら彼の期待に応えたいという思いもあったのだが、いかんせん生来の兵器嫌いという気質は簡単には変えられず、毎回マイルと似たようなやりとりを繰り返す羽目になるのだった。ナーサはそれが申し訳なく、また先ほどのマイルへの言葉にあるように為政者としてふさわしくないのではないかと自問することもしばしばであった。「ナーサ」が完成した暁には正式に王位の継承が発表されるというのに、果たしてこのままでよいのだろうかというのが、最近ナーサが頭を痛めている問題であった。
 そんなナーサの思いとは裏腹に、「ナーサ」の建造はきわめて順調に進んでいた。それは、報告を受けるまでもなくこの地をたびたび訪れているナーサにとっては目に見えて明らかなことであり、同時に彼女が懸念している王位の継承が現実のものとなる日が近づいていることをいやが上にも実感するのであった。
 眼下の光景を見下ろしながら、ナーサは思わずため息をついた。隣のマイルは目敏くそれに気づくと、彼女に向かって場所を変えようかと問いかけた。しかしナーサは、その提案をあっさりと断り、むしろもっと近くで見たいとマイルに告げた。これまでの彼女であればできる限り「ナーサ」から距離を置こうとするのが常であったので、この要望にマイルは驚き、ナーサの顔をまじまじと見つめ返した。そしてその視線に気づいたナーサは、軽く苦笑いすると「いつまでも避けたままではいられないから」といったことを口にし、恥ずかしそうに顔を背けるのだった。

 ナーサの言葉を受けて機種を下に向けた機体が一気に下降していくのを、その上空で密かに監視していたシロウは、驚きを持って見つめていた。
「へえ。あのナーサが、ねえ」
 思わず口をついて言葉が出たのも、無理はない。ナーサの従姉にして親友、また側近としての立場も兼ねるシロウは、ナーサに付き従うことを常としており、それだけに普段から彼女が「ナーサ」に対してどのような感情を抱いているのか痛いほどよくわかっていたのだから。それだけに、今回に限って機体が駐機場へ向かうのを見て、彼女は驚きを隠せなかった。ちなみに立場上、マイルと顔を合わせる機会も多い彼女は、彼が強引にナーサを引き連れているとは露ほどにも考えていなかった。それだけ、マイルはナーサのことを大切にしていたし、また尊重もしていたのである。
「さてと、あたしはどうやって時間をつぶしますかね?」
 シロウの独り言は続く。ナーサとマイル、いやこの場合は主に前者なのだが、を監視するという目的に従うなら、このまま一緒に駐機場へ降りるのが一番なのだが、それでは二人に気づかれる可能性が高くなってしまう。それでは内密に監視している意味がないのは明らかだった。もっとも、二人の立場を考えれば、本当の意味で自由に行動できることは考えられないことは明らかだった。むしろ、二人に内密でシロウのみが監視するという体制こそが異例であり、そのことに貴族の重鎮たちからは強い異論も唱えられていたのだが、それを半ば強引にはねのけていまのような体制にしているのは主としてシロウの、というよりシロウの意向を酌んだ王妃の計らいによるものだった。いずれは形式張った仰々しい世界に身を委ねることになるのなら、せめてこの一時でも自由を満喫してもらいたいというのが、シロウの願いだったのである。とはいえ、ナーサにしてみればそのような裏の事情など知る由もなく、自由に二人で行動しているのだと思い込んでいた。一方のマイルは、薄々監視の存在に気づいてはいたのだが、それがシロウというナーサに近しいものが行っているのだとは、夢ほどにも思っていなかったのである。
 さて、そんなわけで一人でナーサとマイルという国の重鎮を監視する役を担っていたシロウとしては、多少のリスクを冒してでも確実に監視を続けるのか否か、迷うところであった。彼女はしばし考えていたが、やがて決断を下すと二人の後を追ってドックの駐機場へと機首を向けた。
 そのようなことが上空で行われているとき。一足先にドックへ到着していたナーサとマイルの二人は、突然の来訪に驚きながらも案内役を買って出た現場主任に従って「ナーサ」の船内へと足を踏み入れていた。目指すのは、艦橋上層に位置する主操舵室。ナーサの席が設けられた部屋である。「ナーサ」就航時にはここにナーサが座し、船全体の統率を行うことになるはずであった。
 広い船内を縦横に結ぶ列車と光子エレベータを乗り継ぎたどり着いたその部屋は、まだ端末類の設置も行われておらず、がらんとした空間にむき出しの配線と搬入されたままの状態の端末類が雑然と点在するだけだった。作業をしている人もなく、あまりにも殺風景なその様子にナーサは思わず身震いする。一方のマイルはといえば、主任に導かれるまま室内を見渡せる高い位置に設けられているナーサの席となる貴賓席(実際にはまだ席は取り付けられていなかったが)を、興味深そうに眺めていた。
作品名:ジュラ外伝 作家名:かみやま