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ジュラ外伝

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 議場内はしんと静まりかえった。みんな、表示されている映像を食い入るように見つめている。ごくり、と誰かが喉を鳴らす音が聞こえたような気がした。やがて、おそるおそるといった調子で、誰かが口を開いた。
「それは、いつ起こるのかね?」
「およそ二周期後、と予測しております」
 イリーが答える。その言葉に、議場内はざわめきに包まれた。
「被害のほどは?」
 ざわめきの中から、誰かが声を上げる。その言葉に、再び議場内は静けさに包まれた。
「衝突箇所を中心に、地上の八割方はほぼ壊滅状態に陥ると思われます。残りも、その後に起こる大規模な地殻変動と気象変動の影響により、短い期間で人の住めない環境へと変わるでしょう。地上で生き延びられるものはまずいないと思われます。すなわち」
 イリーはいったん、言葉を切った。こめかみをつと流れ落ちたのは、冷や汗だったか。そして、再び開かれた彼女の口からもたらされた言葉は、冷酷かつ厳然たる事実だった。
「地球は壊滅します」
 一瞬の静寂。次の瞬間、議場内は蜂の巣をつついたような騒ぎに包まれた。人類の絶滅、もっといえば地球の破滅を宣告されたのであるから、無理もない。
 と、そのとき、これまで黙ってじっと耳を傾けていた国王がすっと席を立った。その様子を察した議員たちを中心に、波紋が広がるように静けさが広まってゆく。議場全体が再び静けさに包まれるまで、そう時間はかからなかった。
「話はそれで終わりか?」
 国王の問いに、イリーは頭を深く垂れて肯定の意を表した。それを確認すると王は、右手を高々と掲げて宣言した。
「皆も聞いての通り、大変重要な事態が報告された。ついてはいったん議会を休会し、二サル後に本案件についての審議を集中的に行うものとする。異論のあるものはいまこの場で申すがよい」
 誰も異論を唱えないことを確認すると、国王は改めて宣言した。
「ではただいまより、休会するものとする。二サル後に、再度集合するように。解散!」
 国王が退出すると、イリーはその場に崩れ落ちるようにして気を失った。足の怪我、度重なる心労は、彼女を心身ともに疲れ果てさせていたのだ。
 国王の言葉と裏腹に、議場内は再び大検層に包まれた。衛兵がイリーを運び出すのを尻目に、あちこちで議論が繰り広げられる。何しろ、地球の滅亡が宣告されたのだから、無理もない。しかし、どのような非常時にも、既存の検疫やしがらみを優先するものがいるのも確かであった。
「皆様方、少しお耳を拝借願いたい」
 ひときわ大きな声が議場内に響いたのは、そんな折りだった。議場内の視線は、一斉に声の主へと注がれる。
「皆様方が議論を繰り広げられる前に、一つ懸案事項を申し上げたい」
 自分に注目が集まっているのを確認すると、改めて声の主は語り始めた。
「懸案とはほかならぬ、先の事態を伝えてくれたもののことです。格好から見るに、かのものは一公務員であり、貴族ではありませぬ。そのようなものが、議場内に立ち入るのは許されざる行為だと断じざるを得ませんが、皆様方のお考えをお聞かせ願いたい」
 議員たちの中から、事態が事態だけに仕方がないという意見が出され、それに対する賛同が広がっていく。それはある程度予期できたことであったのか、先の言葉に付け加えるように、声の主は発言した。
「そも、このような事態にあっては貴族である所長自らが説明に参るのが道理。三研ではこのような初歩的なことすら守られていないと見える」
 ここにきて何割かの貴族たちは、合点がいった。先ほどからイリーの責任問題について主張している議員は、第三研究所の所長を務めるものとは対立する家柄の貴族であり、この期に応じてライバルを蹴落とそうという意図があるのは明白だった。しかし、いっていることは至極もっともであり、表だって反論しにくいことであるのも事実であった。
「ご高説、痛み入る」
 みなが押し黙る中、三研所長の実父である評議員が受けて答えた。
「こたびの不手際は、確かに我が息子の不徳の致すところ。批判は甘んじて受けましょう。しかし、今回は事態が事態。所長不在の折、報告を優先した彼女の判断は間違ってはいないと申し上げたい」
 その言葉に、賛同の声があがる。しかし、それは予測の範囲であったのか、糾弾者は動ずることなく言葉を続けた。
「しかり。私とて、ことの重大性は認識している。何もそのことだけで咎め立てしようというわけではない。だが、」
と、彼はここでいったん言葉を切った。そして、皆の注目を集めていることを改めて確認すると、言葉を続けた。
「しかしですぞ。彼の者がどのようにしてここまでやってきたのか、ご存じか? 本来、評議員たる貴族しか足を踏み入れることが許されない本議場。あの不届きな女は、門番と議場入り口の衛兵に重傷を負わせ、無理矢理に進入してきたという報告が私の元にあがっておる。皆様方、これをどのようにお考えか?」
 議場内にざわめきと動揺が走る。やがてそちらこちらで、イリーに対する批判の声が湧き起こり始めた。
 衛兵に重傷を負わせたとなると、さすがに下手な言い逃れはできない。それどころか、下手をすれば本人は死罪、上司である研究所の所長も当然、監督責任を問われることになる。場合によっては、さらにその上まで問題が波及し、貴族としての家柄を大きく下げることにもなりかねない。ことここに至ってこれ以上の反論は不利と悟った所長の父たる評議員は、この場は身を引くことを決断した。
「確かにそれは、由々しき事態。かかる後は、陛下が戻り次第彼の者の処遇について採決をいただくということにしたいと存ずるが、いかがであろうか?」
 周囲の声の同意を受けて、追求する者もその手をゆるめた。
「我としてもそれで異存はない。しかしくれぐれも、衛兵が重傷を負っていることをお忘れなく。ことは重大ですぞ」
 最後に釘を刺しておくことを忘れず、議員はその場での追求を収めたのだった。

 国王は議場を後にすると、足早に中庭へと向かった。普段は会議で疲れた心身を癒すための場所であるが今回は目的が異なり、まっすぐと中央の区画へと進んでいく。途中、一瞬体にぴりっとした感覚が走り、王家の者たちのみが立ち入れる専用区画に入ったことが体を通して伝わってくる。国王の目指す先はその区画の中心、噴水を囲んで少し開けた場所にあった。
「陛下」
 噴水の間で読書にふけっていた王妃が、国王の足音を聞きつけて読んでいた電子小説から顔を上げた。そして国王の姿を認め、わずかに眉を寄せる。
「このような場所でそのような格好をなさるとは、無粋ですわよ」
 王妃はそういって、休息の間に仰々しい正装の出で立ちで現れた国王のことを咎める。「その点については詫びさせてもらおう。が、ちと困ったことが起きたものでな」
 国王は軽く手を挙げて王妃の言葉に応えながら、目配せをする。王妃はすぐにその意図を察し、手を二回打ち鳴らした。それに応えて茂みの陰に控えていたメイドがすっとその姿を現すと、王妃は彼女に向かって命を下した。
「人払いを」
作品名:ジュラ外伝 作家名:かみやま