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雪の華~Wintwer Memories終章【聖夜の誓い】

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 かなりの長い間、輝は下半身を丹念に愛撫されていた。が、聡の悪戯な手が下半身だけではなく同時に乳房への甘いに責め苦に再び及び始めた時、自分の身体に変化が起きたことを悟った。
「聡さん、止めて」
 何かがおかしい。まるで身体の奥でたくさんの鳥がはばたいているような、落ち着かない気分だ。
「聡さん、いや」
 だが、聡は撥ねる輝の身体を上から抑え込んだ。
「聡さ―」
 ふいに身体の奥で羽ばたいていた小鳥たちが一斉に飛び立った。輝は小さい悲鳴を上げ、しなやかな身体を弓なりに仰け反らせる。
 その瞬間、輝は瞼の奥に輝くオーロラを見たような気がした。それまで聡に執拗に愛撫されていた下半身を中心に妖しい震えが四肢にまで走り抜け、息さえつけないほどの初めての絶頂を迎えた。 
 乱れる輝に堪らなかったのか、聡は輝の小さいけれど形の良い乳房の突起を銜えた。感じやすくなっている先端を吸い、引っ張られ、舌で転がされる。それだけでも、耐え難い刺激が身体を間断なく襲う。
「あーぁっ」
 絶頂を迎えたばかりの身体はたちまちの中に再び切なさに呑み込まれる。乳房も下半身も、まるで焔が灯ったように信じられないほど熱くなっていた。
 しばらく乳房を吸っていた唇でまた唇を塞がれる。
 輝が服を脱いだ後、シャンデリアの照明は落とされ、室内はほの暗くなっていた。淡い室内灯の光だけが作る空間に、輝の透明感ある膚がほの白く浮き上がる。二人が烈しくキスを交わす度に、互いの唾液が混じり合い、水音が妖しく響いた。
 後に、聡が撮影した真〝ピアノと女と〟は世界的な写真コンクールで銀賞を受賞した。フォトグラファーAKIRAの名は世界的に注目されるようになったが、この写真のモデルとなった美しい妖艶な女性は誰か? という話題がしばらく世間を賑わせた。
 かなり扇情的なヌード写真ということで、聡はそのモデルとなった女性のプライベートなプロフィールは公表しなかたため、そのモデルは幻の美女として、ついに世間に知られることはなかったのである。
 が、二年後、聡が電撃結婚した相手の女性がそのモデルであったと判明し、更にその女性が妊娠四ヶ月であると発表されたことがまた大いに話題になった。ただし、これはずっと後の話になる。

 聡からデートに誘われたのは、それからきっかり二週間後の十二月二十四日であった。初めてのデートとあって、輝はすっかり心が浮き立って、終始はしゃぎっ放しである。そんな輝を聡は呆れる風もなく嬉しげに見つめていて、周囲から見れば、微笑ましいカップルそのものだ。
 輝は普段から心がけているように三十一歳の世慣れた女らしい態度を取ろうと心がけていたものの、やはり大好きな聡とのファースト・デートとなると、ついはしゃいでしまう。時々、我に返って大人げない態度を取っている自分に気づき、頬を染めるのだが、聡は穏やかに微笑んでいるだけだ。
 また、あるときは振り返ってみると、聡が熱っぽい視線でこちらを見つめていることを自覚することもあった。そんな瞬間、聡の切れ長の瞳には、何ともいえない艶っぽい光が浮かんでいる。
 それは他ならぬ彼が輝を抱くときの瞳そのもので、彼の綺麗な顔に浮かんでいるのは紛れもない官能的な笑みであった。最初で最後のヌード写真を撮影したあの夜を境に、輝は聡に二度抱かれた。一度目はもちろん、初めて彼の夢そのものである〝キャッツ・アイ〟に招かれた夜。後の二度はN駅近くのホテルを利用した。
 既に三度も関係を持ちながら、これが初めてのデートというのもおかしな話ではある。もちろん、彼の腕の中で極上の悦楽を味合わせて貰うのもこの上なく満ち足りた時間ではあるけれど、輝にしてみれば、世の普通の恋人たちのように手を繋いでデートをしたり、買い物をしてみたかった。
 しかしながら、身体の関係は持っていても、聡の本心がどこにあるのか判らない現況では、自分から白昼に堂々とデートしようとは言い出せないでいた。
 五十歳の離婚歴のある男と三十一歳の女。その取り合わせは、身体を重ねたからといって、〝結婚〟にすぐさま結びつくものではない。その程度のことは輝にも理解できる。
 聡にどのような気持ちで自分と付き合っているのかを訊ねることは、一つの冒険であり賭けでもあった。もし、その場で曖昧な逃げを打たれたり、
―俺は君と結婚するつもりはない。
 などと言われたら、立ち直れそうにない。
 輝は何も彼との結婚を望んでいるわけではなかった。もちろん、結婚はしたい。愛する聡の側にずっといて、彼のために料理を作ったり色々なことをしてあげたかった。
 でも、それ以前に、聡の側から離れたくない。だから、もし彼に結婚の意思の有無を訊ねたとして、彼が明確な拒絶の意思を示せば、困るのは輝なのだ。
 幾ら彼を好きでも、あからさまに拒まれてなお側に付きまとうほど恥知らずではないつもりだ。輝が最も怖れるのは聡の側にいられなくなることだが、それ以上に怖いのは彼に嫌われ疎まれることであった。
 嫌いだ、側にいて欲しくないと言われ、なおしつこく付きまとえば、優しい聡でも輝を鬱陶しく思うのは当たり前だろう。そんなあれこれを考えれば、自分の方から結婚や将来の話を持ち出すのは愚かなことに思える。
 また、輝自身、今はまだ聡と付き合い始めたばかりで、彼との時間をもっと積み重ねてゆきたいと考えている。一緒に過ごす時間を増やし、二人だけの想い出を積み重ねてゆく中に、自ずと見えてくるものもあるだろうし、その中には二人の未来も含まれているかもしれない。
 今はただ、彼の側にいたい、いられれば良いというのがいちばんの本音に近かった。
 なので、聡から〝今度の月曜、デートしないか〟と誘われたときは、年甲斐もなく飛び上がりたいほど嬉しかった。
 生まれてこのかた三十一年間、輝はずっと一人でクリスマスを過ごしてきた。むろん、両親と自宅で暮らしているのだから、厳密な意味で一人ではない。長い間には、会社の同期が集まってクリスマスパーティ(要するに合コンだ)開き、その集まりに参加したこともある。
 だが、いつも特定の人と過ごすクリスマスではなかった。それが三十一歳になって初めて彼氏ができて、その彼とクリスマスイブを過ごすことができるのだ。これが歓ばしい記念日でなくて何だろう。
 クリスマスイブにデートに誘われたからには、何かプレゼントを用意しなくてはならない。一週間前に誘われたので、それから急いで手編みのマフラーをこしらえた。文具店でクリスマス用のラッピング袋を買い求め、それに入れて袋の口は銀色のリボンで結んだ。
 待ち合わせの時間はN駅前に四時だった。そこで待ち合わせて電車に乗り、電車でふた駅の隣町まで行った。
 遊園地はS町にあるのだ。クリスマスの二日間だけ、普段は七時で閉園する遊園地もナイト営業をする。遊園地に着いたときはまだ五時前だったので、とりあえずはメリーゴーランドに乗った。流石に聡は〝これは良いよ〟と手を振った。
「五十のおじさんが乗って歓ぶところなんて、想像しただけでもゾッとしない」