フェル・アルム刻記
それは彼らが、フェル・アルムでの旅を通じて膨らませていった情熱。その情熱が希望を生み出していったのを知っているからこそ、ルードとライカはさらに旅を続けていくのだ。
お互いへの想いも募らせ、はぐくみながら。
「ふふふ。いいねぇ……」
二人に置いてけぼりを食う感になったハーンは肩をすくめてみせる。
「でもそうしたらさ。今となっては島となった、このフェル・アルムから、エヴェルク大陸に渡る方法ってのを考えないとね」
「あ――」
ルードとライカは立ち止まってしまった。
「ライカの翼で飛ぶっていうのは……?」
「うーん……とてもじゃないけど無理よ。アイバーフィンだって一メグフィーレも飛べればいいほうなのに、ここからエヴェルク大陸の端っこまで、そうね……少なくみてもその十倍はありそうだもの……」
首を傾げつつ、難題に思い悩む二人にハーンは声をかける。
「ま、今悩んだってしかたないよ。だいじょうぶ。なんとかなるって。ほら、今までもそうしてきたようにね!」
「ハーンも気軽だねえ、相変わらず」
ルードは苦笑しつつもハーンに同意した。
「〈帳〉さん……いや、ウェインディルさんは、これからどうするんですか?」
しばらくうつむいて考えたあと、ウェインディルは言った。
「そうだな……君達とともに過ごしてこられて、今まで本当にありがたいと思っている。けれども私は……君達とここで別れることにしたい」
「え……〈帳〉さん?! なぜです? 俺達と一緒に行ったほうがいいんじゃないですか?」
ルードは素朴な疑問を投げかけるが、ウェインディルの表情を見た途端、それがひとりよがりな考えであることに気付いた。
「今はただつらいばかりだが……。さすがにこの岸壁から身を投げたりはしない。私はエシアルルの理に従って生き続けるよ。けれどもしばらくは……この胸の底からわき起こる気持ちの整理がつくまでは、この地にてひとりでいたいのだ……頼む」
哀しみを必死に堪えつつ、ウェインディルは言う。そしてそれきり、再び海のほうを見て押し黙った。どのような表現でも言い尽くせないほどに、彼の哀しみは計り知れなく深いのだろう。
ルード達は、その背中に別れの声をかけ――彼の哀しみがいつの日か癒されることを願いつつ――岸壁をあとにしていくのだった。
まず目指すのは南部のいずこかの街。そこからフェル・アルムを北に巡っていくのだ。