フェル・アルム刻記
「いや。そうはいかないよ」
その声は、デルネアのすぐ背後から聞こえた。デルネアにすら全く気配を感じさせない、その声の主は誰か。
「何てことなんだ……僕がもう少し来るのが早ければ、二人を失うことなど……」
声の主――金髪の青年は、すっとデルネアの横にまで歩み寄り、亀裂を見つめつつ、悲痛な声で自らの至らなさを呪った。デルネアは、白い衣をまとったその金髪の青年をまじまじと見据える。
「お前……は何者……いや……まさか……」
明らかに恐怖のために、デルネアの声が震える。
「信じられぬ。姿は違っていても、その“力”は……」
「君は僕を知っているはずだよ。デルネア。あれから幾とせが流れたとは言っても、決して忘れるはずがないからね」
青年の声は穏やかでありながらも、威圧感を秘めている。
「許せないな。ルード達を殺めることはないだろうに!」
ぴぃん、と空気が張りつめる。
デルネアは剣を構え、青年と向かい合う。ゆっくりと息を吸い込み、そして――動揺を隠しきれずに言葉を放った。
「なぜ! なぜこのフェル・アルムに御身がいるというのだ! レオズス!」