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フェル・アルム刻記

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 ルードは自問しながらも防戦する一方だった。徐々に、追いつめられているのは分かっている。攻撃を受けるたびにじんと痺れる腕も、いつまで保つのだろうか? 持久戦になれば、いかにルードが聖剣所持者といえども、天性の剣の使い手であるデルネアに敵うはずもない。
 体力と精神を消耗してきたルードはほんの一瞬、集中力を乱してしまった。すかさず、勝利を確信したデルネアは容赦無い一撃をたたき込もうと、剣を上段に構え――唸りとともに振り下ろす。ルードはもはやなすすべなく、呆然と自らの死を見つめるほか無かった。
 が、かきん! という乾いた音とともに、デルネアの攻撃はこぶし一つ分の隙間を残して遮られた。目の前には緑色の硝子のような壁が出来上がっていた。明らかに、術によるものだ。
 デルネアはしばし、剣を振り下ろした体勢のまま、固まったように動かなくなった。やがて、怒りに満ちた表情をふつふつと満面に浮かべると、戦いの場から離れていった。
「我らの戦いに割って入るとは、鬱陶しいぞ――〈帳〉めが!」
 ルードはすくと起き上がり、デルネアが近づこうとしている方向を見る。ライカの肩を借りながら〈帳〉が起き上がっていた。その顔に生気はまだ感じられないものの、ルードの顔を確認すると、彼は小さく笑ってみせた。デルネアの剣戟からルードを守った障壁は、〈帳〉が作り出したものだろう。だが、普段の〈帳〉ならいざ知らず、今の彼を見るに、術が行使出来るほど力がみなぎっているとはとても思えない。
「アイバーフィンの魔力を借りてしか術が行使出来ぬとは、貴様も落ちたものよ! “礎の操者”の名が泣くぞ」
「……今さら私の名前がどうなろうと構わぬ。しかしルードとガザ・ルイアートは、我々の希望を繋ぐものなのだ。だから決して……」
 〈帳〉は言いつつも、力なくライカに寄りかかった。止血に費やした魔力がことのほか大きかったのか。おそらくは持てる魔力を出し切ってしまったのだろう。
「わたし達だって、このままルードを見てるだけなんて出来ないもの! ルードを……なんかしてみたら! 許さないわよ、わたしは! 絶対に!」
 〈帳〉の言葉を代弁するかのように、ライカがわなわなと、感情をむき出しにして言い放った。
「それほど愛おしく思うのか、この小僧を? だが……」
 ルードはこれぞ絶好の機会とばかりに、デルネアに切ってかかろうとした。
「甘い!」
 デルネアは振り向きざま、おのが拳を地面に力強く叩き付けた。ぬかるんだ地面はいびつに湾曲しながらも、ごん、と石が割れたような固い音を立てる。地面が割れ、それはすぐにも、奈落の底へと繋がる大きな亀裂となった。その幅は二十、いや三十ラクにも及ぶだろうか。
 ルードはかろうじて後ろに逃げ、谷間に落ちるのだけはかろうじて逃れた。しかしすでに自然の理を失いかけている大地は、なおもその亀裂を大きくしようとしており、ルードは慎重に後ずさるしかなかった。
「隷ども! あの邪魔者どもを抑えておれ!」
 デルネアがそう言うと、隷達は即座に恭順の姿勢を示した。そして各々の魔力を力と変え、〈帳〉とライカを攻撃し始めた。漆黒に染まった稲光のような魔力が容赦無く発せられる。
 〈帳〉は再びライカの持つ魔力を借りて、瞬時に緑色の膜を作り、それらの攻撃をしのぐ。が、彼に出来るのはそれが精一杯だった。かつて魔導師として名を馳せた彼とはいえ、力を失った今の〈帳〉には、複数の魔力に対して打ち勝つだけの余力はない。ただ、抗うのみ。しかも魔法の障壁はルードの目から見ても弱々しく、いつ破れても不思議ではない。
 と、意を決したかのように、ジルとディエルが〈帳〉の前に立った。双子の使徒は、調和する音階を互いに発しつつ、それぞれの両手を前にかざした。〈帳〉の障壁とは比べものにならないほど、強靱な魔力の壁が出来上がり、一切の攻撃を遮断した。
「ここはオレ達がしのいでみせる! だからルードは、デルネアを頼む!」
 ルードは仲間達にうなずいてみせると、デルネアの動向に目を向けた。
 熾烈な戦いが、再び繰り広げられようとしている。



作品名:フェル・アルム刻記 作家名:大気杜弥