歴詩 集
『ガラシャ、時知りてこそ』
父が本能寺で謀反
逆臣の娘となった
夫が上杉討伐
徳川方に与(くみ)する妻となった
しかれども
決して、決して……
石田の思い通りにはさせぬ
この珠(たま)を 人質にと
それは淀殿の指図か?
それとも……、其方(そち)一人の浅知恵か?
石田!
答えらっしゃい!
豊臣と徳川
すぐに 天下を分ける大戦(おおいくさ)が
起ころうぞ
その奸計(かんけい)か?
この珠を 人質に取ってしまえとは
挙げ句 この大坂の細川屋敷を
兵で かようにも囲んでしまうとは
光成 許せぬ!
イエズスの グレゴリオ神父に導かれ
すでに洗礼を授かった
このガラシャの 精白な心身
下賤(げせん)な其方(そち)には 渡さぬ
絶対に!
丹後の味土野(みどの)の山中
辛苦をなめた幽閉暮らし
太閤さまが 呼び戻してくださった
病んだ心は キリストの教えで 立ち直れた
それを 今
この珠を 人質にと
兵で 屋敷を囲むとは
小笠原秀清 許せ
家老には 罪がない
教えで 自死はできぬ
故(ゆえ)に 頼む
部屋の外から 槍で一突き
このガラシャを 殺せ!
そして屋敷に 火を放て!
今は神の子
この純潔な ガラシャの身
渡さぬ 絶対に
石田三成に
散りぬべき 時知りてこそ 世の中の 花も花なれ 人も人なれ
ここに 槍一突き
殺(あや)められ
父光秀、母煕子(ひろこ)の元へ
珠は 逝くぞ
さあ!