歴詩 集
『静御前の涙』
あちきは……
あちきは 殿にお会いしとうございます
謝りとうございます
そして かたきを討ちとうございます
殿の男(お)の子が……
あちきのややが……
由比ヶ浜(ゆいがはま)の 海の藻屑とされやんした
くやしおす つろうおす かなしおす
殿は今 どの空の下に あらせますか
ひよどり越えに壇ノ浦
都大路に凱旋されました
桜花爛漫(おうからんまん)
京の白拍子 静は舞いました
騎虎(きこ)の勢いの 若武者を祝い
運命(さだめ)どした
赤い糸に結ばれて 殿のお子を身ごもりました
嬉しゅうて 嬉しゅうて
殿のややが おなかを蹴りはって
吉野山
峰の白雪 踏み分けて
入りにし人の あとぞ恋しき
殿と別れて 幾年月
つろうおした かなしおした
あちきは あちきは 殿にお会いしとうございます
鶴岡八幡宮 その舞台
兄(あに)さまと姉(あね)さまの面前で 歌い舞いました
それなのに 殿の男の子は……
あちきのややは 捨てられてしまいました
冷たい海へと
恨みます 憎みます
殿の男の子が ひどい目に
あちきは あちきは 殿にお会いしとうございます
謝りとうございます
そして かたきを討ちとうございます
しづやしづ
しづのをだまき 繰り返し
昔を今に なすよしもがな
静の涙は 枯れてしまいました
殿は今 どの空の下に あらせますか
あちきは……
あちきは 殿にお会いしとうございます
恋しゅうおます
甘えとうございます
抱かれとうおます
きっときっと お会いできる日が
来ることを 夢見て
殿をたずねる 旅にでます
殿は今 どの空の下に あらせますか
恋しゅうおます