「お下げ髪の少女」のその後
それは、美緒と新郎が微笑みながら口づけを交わしている写真だった。
緒方の視線に気づくと、美緒は慌ててその写真をかたづけた。
美緒の顔は蒼白だった。
緒方はその写真を見て衝撃を受けた。ナイフで刺されたように、強烈だった。
間もなく、彼は思った。なぜ、美緒の兄に連れられてそこへ来たのか。その理由は簡単だった。
美緒に逢いたかった。決別して八年が過ぎていた。諦めた美緒に、やはり逢いたかった。
もうこれで、最後にしようと思った。
四歳の女の子が緒方にまとわりついた。いろいろとおもちゃを持って来ては一緒に遊んで欲しいという。美緒に似て、可愛い子だった。
「真央ちゃん。緒方さんが気に入ったのね」
美緒はそう云って笑った。
「真央ちゃんおいで。おじちゃんが遊んであげるよ」
美緒の兄がそう云っても、子供は緒方から離れなかった。
美緒は手製のサラダ・スパゲッティなどを出してくれた。兄はウィスキーの水割りを要求した。
緒方は美緒と、美緒の父と三人で囲んだすき焼き鍋を想い出していた。あのときは幸福だったと思う。もう二度と、あのような幸福感に浸ることはないだろう。そう、思った。
作品名:「お下げ髪の少女」のその後 作家名:マナーモード