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「お下げ髪の少女」のその後

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 緒方は三時間、街を彷徨った。あの美しいまなざしを求めていた。
涙は堪えるべきものだと誰かが云っていた。三時間、泣かなかった。
しかし、住まいへ戻ると堪え切れずに泣いた。
美緒が編んでくれたマフラーと誕生日に贈られたネクタイを持って再び深夜の街へ出た。
タクシーを停め、港へ向かった。岸壁から、持って来たものを海へ投げた。
それが済むと、歩いて帰ってきた。美緒との想い出ばかりが去来した。
トラックに轢かれそうになった。
「ばかやろう。どこ見て歩いてるんだ!」
運転手が怒鳴った。空腹を感じたが、深夜だった。コンビニなど、まだない時代だった。
美緒が二十七歳のとき、緒方は彼女の兄と共にそのときの彼女の住まいだった公団住宅を訪ねた。
彼女は二十一歳で結婚したのだった。相手は高校のときの同級生だったらしい。
 彼女が二十三歳のとき、長女が生まれ、その二年後に次女が生まれた。
美緒が生徒会の副会長で、夫が会長だったと、美緒の兄から聞いた。
緒方は自作の風景画を結婚祝いとして贈った。横浜の港付近の風景だった。その絵は、その三年前に美緒の父に贈った安曇野の絵の隣に飾られていた。
「緒方さん。この絵は一生手放しません。宝物ですからね」
美緒は笑ったが、眼を潤ませていたような気がした。緒方は来たことを後悔した。
同じ部屋の反対側に、結婚披露パーティーのときに撮影された写真パネルが飾られていたからだった。