「お下げ髪の少女」のその後
霊園の名称とそこまでの行き方、墓の位置を教えてもらった。場所が判らなかったら、霊園事務所で杉原和成のお墓と云えばすぐに判ると、美緒は補足した。それは、美緒の父の名前だった。
息子より五年早く、美緒の父は七十三歳で命を落としていた。主な死因は胃癌だった筈である。その通夜には緒方も参列した。そのとき、美緒は四十三歳だった。彼女の娘たちは高校生になっていた。
緒方は通夜の法要が行われているところの隣の部屋で、美緒の旧友の菊本孝子と共に、寿司をつまんだ。
「美緒さん、やつれましたね」
緒方がそう云うと孝子は、
「何云ってるんですか。彼女は昔からスリムだったでしょ。憶えてないんですか?」
非難口調だった。
そのときのことは、ほかに何も憶えていない。車を路上駐車していたので、そればかり気にしていたようにも思う。斎場の近くには、駐車場が見当たらなかった。
「じゃあ、明日、お墓参りをさせて頂きます」
「そうして頂けると、兄も喜ぶと思います」
それだけだった。美緒の結婚後の姓が島村だったことは、電話が来なければ死ぬまで思い出さなかっただろうと、緒方は思った。
緒方は電話のあとで酒をのんだ。美緒の兄の和正との想い出が、肴だった。そして、やはり美緒との想い出も、鮮明に蘇った。
作品名:「お下げ髪の少女」のその後 作家名:マナーモード