「お下げ髪の少女」のその後
「お下げ髪の少女」のその後
その女性からの電話を取った緒方は、最初誰なのか判らなかった。相手は「島村です」そう、名乗った。声の印象の推定年齢は、二十歳から四十歳、だと思った。
昔、ラジオ番組で声が若いと自認する女性にキャスターが電話するコーナーがあった。
或る日、電話口に出た女性の声は、明らかに女子高校生と思わせるものだった。質問に対する応えは「わかんなーい」完璧に女子高生としか思えなかった。その主婦が、実年齢は五十歳を超えていた。
緒方は少し考えて、二十二年振りに聞く美緒の声だと気付いた。その年齢にしては、可愛い印象の声だった。
「兄が先月の初めに亡くなったので、それでご連絡差し上げました。緒方さんの電話番号を、兄の遺品のパソコンの中で、やっと探し出しました。それで失礼を顧みず、突然お電話さし上げました」
そこまで聞くうちに、美緒の声は本当に高校生に戻っていた。人間の感覚は面白い。
その面影を蘇らせることができると、聴覚がそれに合わせてタイムスリップしたのである。
最初は落ち着いた中年婦人の声にも聞こえたが、あの、可愛い美緒の声に戻って行ったのだった。
「先月ですか?その前の月に彼から電話が来て、お母さんも会いたがっているから顔を見せろよ。なんて云われたんです。事故にでも遭ったんですか?」
「急性の膀胱癌でした。発見されて二週間で息を引き取りました」
「二週間!そんなことがあるんですね。先月初めということは……」
「もう、納骨も済んでしまいました」
「そうですか。霊園は、どちらですか?」
作品名:「お下げ髪の少女」のその後 作家名:マナーモード