東京ドール
するとエリカは些か険しい表情で俺に詰め寄った。
「私を抱かないのならお金は返すわ。私は乞食じゃないのよ」
ネクタイを締めた俺はビジネスバッグの中を弄った。
その中にあるもの。それは以前に買ったネックレス。付き合い始めた女のプレゼントに買い、渡すことなく破局を迎え、渡しそびれた愛の遺物。
「そろそろクリスマスが近いな。俺からのプレゼントだ」
俺は愛の残骸と、100円ショップで買った使い捨てカイロを添えてエリカに渡す。
「何これ?」
エリカが怪訝な顔をする。
「お互い辛いな。まあ、無理はするなよ。それを持って先に出ろよ。俺は会計を済ませていくから……」
エリカは思い詰めたような顔をして、急いで着衣を済ませた。
「おじさん、たまたま駅に降りたの?」
エリカが背中を向けながら俺に尋ねる。
「ああ、そうだよ……」
本当は毎日仕事で駅を通る。
「それなら、もうあの駅で降りないで……」
エリカの背中と声が震えていた。
エリカは俺の方を振り向くことなく、扉の向こうに消えた。
愛を欲しながらも、手に入れられない者同士の出会いは、切ない余韻を残して幕を引いた。
俺はベッドに身を投げ出すと、東京ドールの残り香に自分と同じ匂いを感じ取っていた。
(了)