八方美人のすすめ 4月 2日 お遍路 追加
勇 気
プータローをしていた時ヨット仲間から彼の勤める会社が別会社を立ち上げるから来ないかと誘われた。内容を聞くと特許製品を作るという、暇だったし給料がもらえるならと厄介になることになった。
その会社はというと、コネで入っている事務職、親会社からたまに出てくる社長、社長と同じ会社でやはり兼務の部長、別の親会社からは派遣されている営業2名だった。さて商品はというとなんてことないもので、特許はあっても役に立たないもの。それを銀行のひも付きでその会社のオーナーが引き受けたというのだった。
商品を作るのも売るのもいい加減なら、そのそも売る気も無ければ売れるものでもない。それでも金があるところはそれを売ろうとするからある意味凄いといえようか。
1年経ち2年も終わりに近付いた時、さすがにこれでは駄目と思ったのは私だった。もっとも全員が気がついているが、他の社員たちは別の仕事もあるわけでそれがどうなろうとしったこっちゃない、ただオーナーさまのご機嫌伺いしているだけの裸の王さまだった。このまま会社を存続させたところで、購入したお客さんに迷惑がかかると思い社長に言った。
「社長、もうやめませんか」
社長も止めたいのは山々だが、オーナーには言うことが出来ない。なんという経営者だと思ったが同族企業で雇われ出世するということは「はい」と「そうですね」を駆使しなければならないのだろう。でも自分の給料も含め毎月金はどんどん出て行くのが分かるのでもう一度社長に伺った
「このままでいいんですか?」
会社が閉まれば自分の給料はなくなる、勿論それは分かっているがそれより、商品が出るとトラブルを起こしかねないので私は進言した。
「それならオーナーにそのことをお前が説明してくれるか」が社長の言葉だった。なんで私がそんなこと説明する必要があるのだろうと思ったものの、全員が逃げ腰で引く勇気がない。仕方ないのでオーナー社長が来た時全員が集まりミーティングとなった。猫に鈴をつけるのは私で三味線になるのも私、その三味線で芸者遊びするのは残りの社員であることは分かっていた。
「ですからこれこれで、この商品は意味がありません」と説明する。
暫く沈黙があり「そうですか・・・ではもう止めましょう」となった。その時の関係者の安堵感ある表情は忘れることが出来ない。
それから数ヶ月、私は出勤しなくても給料が貰え、業績は最悪でもボーナスが出、その条件として次の仕事を探せだった。田舎で資格頭も無いおじさんが働ける場所などあるはずも無く、めでたく失業と相成り、他の人たちは元の部署に戻った。
作品名:八方美人のすすめ 4月 2日 お遍路 追加 作家名:のすひろ