陽だまりの午後
しかしそんな生活がいつまでも続くはずもなかった。人は誰しも老いるものである。男たちはいつか私の元から去り、私は一人きりになった。
私は華やかな世界から身を引き、小さなスナックを始めた。スナックならばママとしてチヤホヤされ、気分よく仕事ができると思ったからである。しかし男に甘やかされてきた女は客商売には向かないのだろうか。スナックは程なくしてたたまざるを得なくなった。
艶やかな絹のドレスも、繊細にかつ神々しく輝くダイヤも、すべて失った。残ったのは多額の負債だけだった。
そして自己破産を終えた今、老朽化した平家の閑居にいるのである。
「ごめんくださーい」
いつも食料を届けてくれる商店のお兄ちゃんが来たようだ。
「はいはい。いつも御苦労様。縁側へ回って頂戴」
顔なじみの若者が、野菜や調味料を担いで縁側に顔を覗かせる。いつも愛想よく、笑顔を絶やさない。
私はそんな彼がいたく気に入っている。だから本当に彼が商店の下働きなどで満足しているのかと、いつも気になってしかたがない。
「あっ、ピンクのセーター……、似合いますねぇ」
「そう? ありがとう。でも、派手じゃないかしら?」
「そんなことないですよ。イイ感じッスよ。そうだそうだ、えーと……、白菜と大根、ブリと甘塩シャケ、それと味噌と味醂でよかったですね」
彼が伝票を眺めながら荷物を確認する。
「ええ、いつもいつも御苦労様」
彼の目が伝票から逸れる。
「あっ、それ、もしかして……、おばあちゃんの若い頃の写真?」
彼の目は縁側に置いたままのセピアに停まったようだ。
「そうよ。私が二十歳の時の写真……」
私は写真を彼に差し出す。
「うわぁ、メチャ綺麗じゃないッスかぁ。俺がこの時に同じ歳だったらヤバかったなぁ……」
「そう? お世辞でも嬉しいわ……」
私は眠っていた女の血が、久しぶりに騒ぐのを感じた。年老いた女が血迷ったとしか思われないだろうが、それほど彼の言葉は私に歓びを与えてくれたのだ。
「お世辞じゃないですよ。そういえば、今も面影ありますもんね。美人ですよ」
「年寄りを冷やかすもんじゃないよ」
「冷やかしてなんかいませんよ。そうだ。いつもご贔屓にしていただいているお返しに、肩でも揉みましょうか?」
「こういう場合は素直に甘えた方が可愛いかしら?」
「そうですよ」