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灯 台

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 高知県の室戸岬にある灯台は光達距離が日本一で26.5海里、キロ換算だと沖合い49km先からもその光を確認することが出る。室戸岬はプレートの衝突により隆起している山で今尚その高さを増しているようだが、突き出た山に立っているのと、大きなレンズのお陰で遠くまで光を放つことが出来、この海域を通る船の安全を担っているわけだが、海の上で49kmというのはそれは恐ろしく遠い距離なのである。

 高速フェリーや軍船ならいざ知らず、ちいさな小船、特にヨットだとスピードが無い。もっとも今の最新鋭レーシングヨットはボート並みのスピードを持っているがクルージングを行うヨット(セーリングボート)にそんなスピードは無い。あってせいぜい6ノット。1ノットつまり時速1海里は1.8km/hなので時速10キロほどのスピードなのである。

 陸上と違う点が海にはもうひとつあり、それは風と潮で流されるということだ。陸上で車を走らすと1キロを時速60キロで走るときっちり1分で着くが、海の上だとそうはいかない。風で流され潮で流されるので対地スピードが上がったり下がったりするのである。

日本の沖を流れる黒潮は私たちに海の恵みを与えてくれ、春になるとかつおを運んできてくれそのおいしさを味わうことができるが、この黒潮を別名黒瀬川といい、その潮の流れに入ると、誰もが「おお、まさしく黒瀬川だ」と納得するほど黒い川のような流れで海を流れている。そのスピードは流軸の早いところで3ノットにも達するほど。
 足の遅いヨットだと自分の対水スピードが6ノット、それでこの流れに逆らうと対地スピードは3ノット、つまり陸地に対して時速5km弱でしか近づくことができないのである。
そんなスピードしかない船で沖合いを進みピカッと光った灯台を発見して「おお!!あれが室戸岬だ」と安心してもそれからそこへ行くまで10時間近くを要するわけである。
穏やかな海面だとウエーキに光る夜光虫を楽しみその時間も楽しむことも出来るが海が荒れていればそうはいかない。行うことを行い、あとはただ黙ってそれを受け入れ我慢し、耐えるしかないのである。
その航海機器が発達した現在でも陸に生きる人間とすればGPSの座標より光る灯台のほうが陸がある安心感あり、なによりピカッと光を放ち続ける灯台は、勇気を与えてくれるのである。

 暗闇で光り続ける灯台をみて、自分は本当に近づいているのだろうかと不安になったことは幾たびもあり、その都度慌ててもしかたない、あの灯台までまだ数時間はかかると自分に言い聞かせたものだ。
作品名:灯 台 作家名:のすひろ