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Savior 第一部 救世主と魔女Ⅰ

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 悪魔祓い師の得意げな言葉をリゼはばっさりと切り捨てる。それが気に障ったらしく、彼は、
「じゃあ、当ててやるよ」
 あの燭台のような杖の先を再びリゼに向けた。白い炎が集まって膨れ上がり、そして―――
 悪魔祓い師は振り返った。
 鈍い金属音が響く。悪魔祓い師の背後に現れたアルベルトが、剣を振り下ろしたのだ。
「ウィルツ、やっぱりお前も来ていたのか」
「その通り。分かったんなら邪魔すんなよ、アルベルト!」
 杖で剣を受け、悪魔祓い師――ウィルツは不機嫌そうに言う。彼は杖を握る手に力を込めると、アルベルトを弾き返した。二人の間合いが離れる。
「全く足止めもできねえのか? マティア」
「申し訳ありません。少々しくじりました。まさかあの状況を切り抜けられるとは思わなかったので」
 現れたもう一人の悪魔祓い師に向かってウィルツは嫌みったらしく言った。それに対し、悪魔祓い師・マティアは淡々と謝罪の言葉を述べる。そうして、手に持った銀の弓を構えた
 厄介なことになった。
「リゼ、無事か?」
 駆け寄ってきたアルベルトが尋ねる。それに対し、リゼは
「私よりもティリーの面倒を見てくれない? この状況でも魔術を使うつもりはないらしいわ」
 誰か助けてーと叫びながら逃げ回っているティリー。やはり魔術は一切使っていない。見上げた根性だ。
「君はどうする?」
「適当に叩きのめして逃げる。あれを全部相手にしてられるほど暇じゃない」
「・・・・分かった。無茶するなよ」
 アルベルトはそう釘を刺して、ティリーの方へ走っていった。
さて、どうしようか。
 通りを埋め尽くす騎士。そして悪魔祓い師が二人。全員相手にするのは正直面倒だ。となれば。
 リゼは地面を蹴り、アルベルトとは反対側の方へ走り出す。その後を、ウィルツの声が追った。
「逃がすかよ!」
 背後から白い炎が襲いかかる。しかし、氷の魔術がそれを阻んだ。走るリゼを騎士達も次々と追いかけてくる。それに向けて、リゼは至近距離から風の衝撃波を放った。風は騎士達をなぎ倒し、細長い塔の様な建物の根元を大きくえぐる。風化してもろくなっていた建物はそれだけで轟音を立てながら倒れた。大量の砂塵が舞い上がり、通りは瓦礫で完全に分断された。
 しかし、別方向にいた騎士が数十人瓦礫のこちら側に残っている。そいつらはリゼの姿を目に留めると、すぐさま追いかけてきた。
 リゼは身を翻し、風化したマリークレージュの街並みに入り込んでいった。



「はあ、どうしてこうなったのかしら」
 住宅地と思われる小さな通りを歩きながら、ティリーはそう呟いた。
 現在、アルベルトとティリーの二人はマリークレージュの西側地区を進んでいた。目的は、リゼを見つけること。リゼが建物を壊して敵を分断するなんていう無茶なことをやらかしたせいで、こちらまで彼女を見失ってしまったからである。とはいえ瓦礫と砂塵で最短距離で追うのは無理。さらにウィルツ達を撒くためにも、大きく迂回して行くことを選んだのである。
「すまない。ウィルツ達がこんなに速く追いつくとは思わなかった。速くマリークレージュを離れていれば・・・・」
「そんなことは別にいいですわ。リゼが教会に追われている以上、こういう事態は十分想定できますもの。・・・・そりゃあ、こんなに早く来るとは思いませんでしたけど。わたくしが不満なのは、今、この状況のことですわ」
「この状況?」
「はい。だって悪魔祓い師と二人っきりなんて息が詰まるだけですもの」
 ティリーはいつもの如くニコニコしてはいたものの、声音は驚くほど冷ややかだった。しかしそれも、次の瞬間にはなくなっていた。
「ああリゼ。早く合流したいですわ。聞くところによると、わたくしが気絶していた間に悪魔祓いの術を使っていたそうじゃありませんか。それをこの目で見られなかったなんて残念でなりませんわ。どうにかしてあの術を見せてもらいませんと」
 灰色の瞳をきらきら輝かせて楽しそうに語るティリー。もはやアルベルトのことなど眼中にないらしい。研究に対する情熱を燃やすティリーを見つつ、アルベルトは先ほどの言葉を反芻した。
(悪魔祓い師と二人っきりなんて息が詰まるだけ、か・・・・)
 それはそうだろう。教会は悪魔研究を禁じている。それを破って研究することは、魔術の使用ほどではないにしろ、かなりの重罪なのだ。悪魔研究家(罰せられる側)が悪魔祓い師(罰する側)と一緒にいたいとは思わないだろう。
「・・・・君はどうして悪魔研究をしているんだ?」
 一人盛り上がるティリーに、アルベルトは何気なく問いかけた。水を差されたティリーは不機嫌そうな顔をしたが、腕を組むときっぱりと言った。
「知りたいから知る。研究したいから研究する。それだけですわ。いけませんか?」
「しかし悪魔は危険だ。魔術が使えたとしても、民間人が対処出来るものじゃない」
「わたくしは子供ではありませんわ。危険は承知しています。それに悪魔研究は、必要あって生まれたものですもの」
 ティリーはさらに続けた。
「悪魔に憑かれて死ぬ人は多い。同様に魔物に襲われて死ぬ人も多いですわ。教会は肝心な時に助けてくれませんし、自分達の身は自分達で守るしかない。それによりよい安全を得るためにも知識は必要ですわ。教会は、『普通の人間が悪魔と関わるのは危険だ』なんて言って、悪魔研究を禁じていますけど、本当は悪魔に関する知識を独占したいからじゃありませんの?」
「それは―――」
「もっと正確に言いましょうか? 教会は、悪魔研究が進むことによってミガー王国が力を持つことを避けたいんでしょう。違いまして?」
 この世界には二つの国がある。一つはマラーク教を国教とし、教会が権力を握る神聖アルヴィア帝国。
 もう一つは魔術によって栄える異教の国。ミガー王国。五百年前、魔女狩りが最盛期を迎えた時代、迫害に抵抗した魔術師によって造られた国である。
「教会は、ミガー王国が悪魔に対抗する手段を見つけること。つまり教会に匹敵する力を持つことを恐れているんでしょう? 神に縋る他に悪魔を倒す力があると分かれば、信者は増えにくくなるしミガーに付け入る隙もなくなるしで良い事ありませんものね。
 魔術の事だってそうですわ。貴方達は魔術を使える者の事を魔女と言いますけど、魔女は『悪魔の力で人々に害をなす者』でしょう。わたくし達、魔術の奥義を知る『魔術師』は悪魔の力に頼ったりなどしませんわ。大体、魔女なんて女にしか使えないじゃありませんの。
とにかく、わたくし達は『魔女』ではなく『魔術師』ですわ。そこのところ、間違えないで下さいませ」
 それだけを一気にまくし立てて、ティリーは一息つく。そして今度は逆に、ティリーの方が質問した。
「せっかくだからわたくしも質問させて頂きますわ。貴方は何故、ラオディキアでリゼを助けたんですの? 魔女を狩るべき悪魔祓い師が、どうして?」
「それは、リゼが悪魔憑きを救っていたからだ。罪人と呼ばれる人たちも分け隔てなく、何の見返りも求めずに。そんな人が罪人として処刑されるのを黙って見過ごすわけには行かない」
「・・・・それだけ?」
「それだけだが・・・・他の理由はなんだろうな・・・」