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Savior 第一部 救世主と魔女Ⅰ

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 誰もいない。
それを知って、リゼが悔しげに呟いた。
「・・・・・ここを離れるんじゃなかった」
 レスターが消えた。
 ティリーも姿を消した。



「もうたくさんよ! ダレンについてきたのが間違いだったわ! あたしは帰る!」
 突如、サニアがヒステリックに叫んだ。案の定というかなんというか、ついに我慢の限界に達したらしい。
「で、でも博士達のことは・・・」
 ボリスがオロオロしながらそう言ったが、サニアをますます怒らせただけだった。
「あんな人達放っておけばいいわ! 大事なのは安全よ! それともなによ。あんたは消されちゃってもいいの!?」
「よ、よくないけど・・・」
「だいたい調査なんてバカバカしいもの最初から嫌だったのよ! ダレンに雇われたから仕方なく来ただけなのに――」
「うるさい。ぎゃあぎゃあわめかないで」
 サニアのヒステリーをリゼはばっさり切り捨てた。わめいている暇があるなら、とっとと帰るなり何なりすればいいのだ。この狭い上に音が反響する地下道内で騒がれてはうるさいことこの上ない。
「・・・何よ、済ましちゃって。悪魔祓い師ならこの状況をどうにかしなさいよ」
 叱責されたサニアは不満げに文句を言ったが、リゼは無視した。
「いなくなった、か。なら、やっぱり」
 一方アルベルトはそう呟くと、何かを確信した様子で顔を上げた。彼は一人の人物に視線を向け、そして、
「ボリス。一つ聞きたい。どうして俺を地下水道へ突き落としたんだ?」
 その場が静まり返った。
「は? こいつが?」
 グラントがいぶかしげに呟いた。小柄で気弱なボリスにそんなことが出来るとは思えない。言外にそう言っていた。
「ち、違いますよ! ボクがそんなこと出来るわけないじゃないですか! 第一ボクにはアルベルトさんを地下へ落とす理由なんてありませんよ! 理由、なんて・・・」
 ボリスの抗弁は次第に小さくなっていった。と思ったら、突然ボリスが飛び出した。それも逃げるのではなく、アルベルトに向かって飛び掛ったのだ。手に銀のナイフを握りしめて。
 しかし、それは空を切っただけだった。落ち着き払ったアルベルトが、ボリスの手を掴んでねじりあげたからだ。その手からナイフが落ちて乾いた音を立てた。
「は、放せ! 放せよ!」
 ボリスはばたばた暴れたが、腕力の差で全く振りほどけない。
「本当にこいつなの?」
「ああ、ボリスで間違いない。それに、俺の記憶が間違いでなければ顔を殴ったはずだしな」
 ボリスの顔には本人曰く壁に激突してできたという大きな青痣がくっきり浮かんでいる。どうやらアルベルトは手加減なしで殴ったようだ。
「もう一度聞く。どうして俺を地下水道へ突き落としたんだ?」
「知らない! 放せ!」
 ボリスは白状する気がないらしい。このままでは埒が明かない。
「こういうのは首謀者に直接聞いたほうが早いと思うわ」
 レスターが消えた。ティリーも姿を消した。
 おそらく行き先は、
「例の地下室に行きましょう」



 地下室の入り口をふさいでいた靄がリゼの魔術であっけなく消し飛んだ。
 吹き抜け状態になった地下室の天井から、朽ちかけた教会が吹き荒ぶ風雨を受けて啼いているのが分かる。そこにリゼとアルベルト。そして(一応)ボリスを見張る役目を引き受けたグラントとサニアが入った。
「ボリス。しくじったわね」
 魔法陣の中心にはメリッサが立っていた。足元には気を失ったティリーとレスターが倒れている。
「ごめんなさい博士!」
 泣きそうな顔で謝罪するボリス。それを冷たく一瞥したメリッサは、アルベルトに目を移した。
「地下は悪魔の巣窟よ。ダレンは半日もしないうちに悪魔に取り憑かれたのに、よく出られたわね」
「暗い所は得意なんだ。・・・・何故俺を地下に落としたんだ?」
「邪魔だったからよ。あなたは魔法陣が動いていることに気付いた。悪魔召喚を行う事を知られたくなかったの」
「じゃ、じゃあダレンは―――」
 サニアが恐る恐る問いかける。するとメリッサはうっすらと笑った。
「ダレンはわたしと同じ事を考えていた。実物を使っての悪魔召喚の実験をね。だからわたしは協力しようと話を持ちかけた。彼は賛同して、生贄を二人も連れてきた。でも、土壇場で弱気になった。
ダレンはわたしに悪魔召喚をやめるようにと言ったわ。やめないなら他の皆に計画をばらすとも。冗談じゃなかったわ。一度は賛成したくせに、今さらやめるだなんて。だから、落とした」
 地下に。光なき闇の中、恐怖が悪魔を呼び寄せる。そんな場所に。
「おかげで助かったわ。悪魔憑きになった途端、言うことを聞いてくれるようになったもの」
「悪魔憑きだと!? じゃあダレンは―――」
「安心して。まだ生きてるわ。でもそれもあと少しね。そう、あなた達も」
 そう言ってメリッサは足元の陣を見つめる。
「なにしろ生贄が二人も増えた。ティリーに感謝しないとね」
「―――感謝なんて」
 突如、メリッサの後ろに倒れていたティリーが立ち上がった。
「いりませんわ!」
 分厚い本の角がメリッサの頭にヒットした。ドンッと鈍い音が響く。倒れたメリッサを飛び越えて、ティリーはレスターを助け起こそうとした。
「邪魔はさせないわ!」
 頭を押さえて立ち上がったメリッサが叫んだ。右手を上げ、何かぶつぶつ呟きながら空中に印を描こうとする。しかしそれが完成する前に、リゼはいくつも氷槍を放った。轟音がしてメリッサのいた場所が一瞬で氷漬けになる。その隙にティリーは意識のないレスターの肩に腕を回した。しかし、何とか持ち上げたものの、体格差のせいでほとんど引きずる恰好になった。
 その時、どこからともなく蝙蝠の魔物の集団が現れた。先日遭遇したものほど大きくはないが、それでも子供くらいの大きさはある。それらがティリーめがけて一斉に飛び掛った。
 そこへアルベルトが剣を一閃させた。蝙蝠の翼を切り裂き、祈りの言葉で浄化する。魔物達は甲高い声で啼きながら、あるものは倒れ、あるものは逃げていった。
魔物の群れを退けたアルベルトはティリーのほうに振り返った。背の高いレスターに苦戦する彼女に手を貸そうと近寄ろうとする。その時、魔物の群れの間からダレンが現れた。
 悪魔に取り憑かれたダレンは、ティリーに襲い掛かると彼女の首を締め上げた。ティリーは必死で抵抗したが、全く振りほどけない。ダレンの中の悪魔は、新たな生贄を前に勝ち誇ったような声をあげた。
 だがそれもほんの少しの間だった。アルベルトがダレンの腕を剣の柄で折ったのだ。腕が使えなくなったダレンはティリーを放り出し、後ろに飛びのいて距離を離す。その隙に思いのほか遠くへ弾き飛ばされていたレスターを助けようとした。が―――
「地上の支配者。悪魔の王。我らが神たる魔王(サタン)よ。ここに捧げられし贄を喰らいて地獄の門を開き給え!」
 メリッサの声が地下室中に響き渡った。
 いつのまにか、彼女は氷の拘束を解いて地下室の奥の祭壇前へと移動していた。召喚の文言が魔法陣に力を与える。