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Savior 第一部 救世主と魔女Ⅰ

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 悪魔が近寄ってくる時の感覚だ。それも一匹や二匹ではない。アルベルトでなくとも薄い靄程度になら知覚出来るぐらい数が多いか強力な悪魔か、どちらかの。
「ティリー、戻るわよ」
「・・・・悪魔、なのですわね?」
「そうよ」
 急ぎ足で来た道を逆戻りする。もともと拠点(ベースキャンプ)からそれ程離れていない。すぐに着くはずだった。
 しかし、最後の角を曲がったところで二人は足を止めた。グラントが明かりももたず、狭い地下道を塞ぐように立っていたからだった。
「グラント? なにをしているんですの?」
 何か様子がおかしい。これは、この気配は―――
「待ってティリー! そいつ、悪魔に取り憑かれてる!」
 そう言ったのと同時に、グラントが襲い掛かってきた。リゼはとっさにかわしたが、ティリーは反応しきれない。激しい一撃をくらったティリーは、壁際まで吹き飛ばされてぐったりと動かなくなった。
 グラントは気絶したティリーに特に関心はないようだった。それよりも真正面に立つリゼに敵意をむき出しにしている。
(低級な悪魔ね、こいつは)
 視界に入るものしか気に留めない、かなり本能的な悪魔だ。もっとも悪魔の半分くらいはそうなのだが。
 虚ろな眼をしたグラントがふらふらと近づいてきて、リゼに掴みかかろうとした。しかし悪魔憑きの例にもれず、力は恐ろしく強いが動きはぎこちない。グラントの攻撃を避けたリゼは、がら空きになった鳩尾に剣の柄で強烈な一撃をお見舞いした。衝撃でよろめいたところを、足払いをかけて転ばせる。そこへ悪魔祓いの術を使おうとした時だった。拠点(ベースキャンプ)のほうからサニアとボリスが、それもグラントの視界に入る場所に現れたのだ。
「グラント! あんた何やって――」
「グラントさん―――」
「サニア、ボリス、止まれ!」
 リゼの忠告よりも、目を血走らせ異様な雰囲気をまとって迫るグラントの姿を見て、二人は足を止めた。驚きと恐怖で目を見開き、棒立ちになる。今にも斬られそうになったところへ、リゼの魔術が発動した。グラントの四肢が凍りつき、行動の自由を奪う。そこへ悪魔祓いの術を重ねた。
 グラントの口から呻き声と一緒に黒い靄が飛び出した。吐き出されたそれを不可視の鎖で拘束する。悪魔は抵抗したが、リゼは容赦なくそいつを締め上げた。
『消えろ』
 細い筋を残して悪魔が消滅する。同時に氷の拘束が融けてグラントはその場にどうと倒れた。
「・・・・・あんた、今何したの?」
 サニアが問いかけてきた。
「今の、魔法でしょ。グラントに何したの!?」
 サニアは怖がっていた。普通のアルヴィア人がそうであるように、魔術を恐れているようだった。
 面倒なことになった。
「あんた、魔女なんでしょ? ミガー王国から来た魔女なんでしょ!? あんたがみんなを消したんだ!」
 自分で言って自分で怯えるサニア。いい加減うっとうしいのでどうしようかと考えていると、拠点(ベースキャンプ)のほうから声がした。
「その人は魔女じゃないよ、サニア・・・・」
 レスターが壁に手を付いてよろよろと歩いてきた。腹にあてた指の間から血が滴って、地面に赤い線を描く。それを見たリゼは、サニアを無視して彼に近寄った。
「グラントに斬られたの?」
 そう聞くとレスターは頷いた。傷口は小さいが、出血のせいか顔色が悪い。放っておける怪我ではなさそうだ。
 傷口に手をかざし、リゼは集中を始めた。淡い光に照らされて、流れる血の量が減っていく。やがて傷口は赤い跡を残して完全に塞がった。
「君・・・やっぱり悪魔祓い師なのか? だからグラントに取り憑いた悪魔を祓った・・・・」
 傷が治ったことを確かめたレスターは、驚いた様子でそう言った。
「でも・・・違う。どっちかというと魔術に近いような・・・・君はどうしてそんなことが出来るんだ・・・・・?」
 リゼは答えなかった。そうしているうちに、
「な、何だ? 何があったんだ?」
 今度はグラントが目を覚まし、戸惑いの声をあげた。
「悪魔に取り憑かれてた。さっきまでね」
「悪魔に!? じゃなんでオレ助かったんだ?」
「私が祓った」
「祓った・・・・? お前、まさか悪魔祓い師なのかよ?」
「・・・・そうよ」
 とりあえずそういうことにしておく。
「悪魔祓い師・・・なんですか?」
 ボリスが恐る恐るといった体で聞いてくる。リゼが渋々頷くと、ボリスは何かを思い出したのか、こう言った。
「ダレンさんが! ダレンさんが今さっきそこにいたんです!」
「ダレンが?」
「はい。あっちに・・・・」
 ボリスは奥の通路を指差した。しかし、暗くてよく見えないとはいえ、人がいるようには見えない。
「本当にいたの?」
「嘘じゃないですよ! 確かにダレンさんが・・・・」
 ボリスは必死に主張する。しかたなく、リゼはダレンがいたという通路へ歩を進めた。
 拠点(ベースキャンプ)からそれほど離れるつもりもなかったので、一つ目の角を曲がった所で立ち止まった。やはり誰もいない。もし本当にダレンがいたとしても、とっくの昔に逃げてしまったのだろう。リゼは戻ろうと踵を返した。その時、
 ギャァァァ――ッ!
 リゼは剣を抜くと、背後から襲いかかってきた蝙蝠の脳天を貫いた。やってきたもう一羽も氷刃で打ち落とす。さらに襲い掛かってきた数匹も全て斬り伏せた。
「魔物か・・・・」
 やはりダレンはいそうにない。戻ろう。そう思った時だった。
 リゼの背後に人影が迫った。
 そして、



「・・・・何だ。アルベルトか」
 振り返りざまアルベルトの首に剣を突き付けたリゼは、驚いた様子もなくそう言った。そうして剣をどけ、何事もなかったかのように向き直る。その淡白な反応にアルベルトは苦笑した。
「心配をかけてすまない。・・・・ほかの皆はどうしたんだ?」
「拠点(ベースキャンプ)にいるわ。そういうあなたは今の今までどこにいたの?」
「地下水路へ落とされたんだ。遠くまで流されてしまったからすぐには戻れなくて、別の出口を探して歩き回っていた」
「落とされた? 誰に?」
「それは―――」
 その続きを言おうとした時、ばたばた走る音が聞こえてきた。
「大変だ! レスターとティリーが」
「ってアルベルト!? あんたどこに行ってたの!?」
 グラントとサニアがただならぬ様子で走ってきた。二人ともいなくなったはずのアルベルトの姿を見て驚いている。
「話は後だ。ティリーとレスターがどうしたんだ?」
「そ、それが、あいつらいきなりやってきた黒い靄みたいなのに飲み込まれて消えちまったんだよ!」
「黒い靄?」
 悪魔か。
「よく分かんないけど黒い靄がたくさんやってきて周りが真っ暗になって・・・・明かりがあるのに何にも見えなくなって・・・・」
 怯えながらサニアが話したが、リゼは聞かずに走り出した。アルベルトもそれに続く。拠点(ベースキャンプ)にたどり着くまでそれほど時間は掛からなかった。
「ア、アルベルトさん!? 無事だったんですか!? どうして・・・・」
 拠点(ベースキャンプ)の入り口のところにへたり込んでいたボリスが、アルベルトを見て驚きの声をあげる。しかし二人はそれを無視して、拠点(ベースキャンプ)内を見回した。