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Savior 第一部 救世主と魔女Ⅰ

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 妙な対抗意識と盛り上がりを見せる研究家達。メラメラ燃える闘志の炎に周りの人間が(ボリスを除いて)若干引いたのは言うまでもない。
 その後、研究家達は夜を徹してでも調査を続けんとする雰囲気だったが、あまりに魔法陣が巨大で調べきれないため、その日はいったん休むこととなった。焦らなくても時間はたっぷりある。十分に休息を取った方が頭も冴えるとメリッサが提案したからだ。研究家達は興奮冷めやらぬ様子だったが(リゼ達にとってはありがたいことに)それに同意し、例の地下室から少し離れた場所に作った拠点(ベースキャンプ)で大人しく床についた。ティリーなど、まるでお出かけを待ちきれない子供のように調査を待ちきれない様子であったが。
 ところが次の日の朝になって、調査どころではなくなってしまう出来事が起こった。
 ダレンが姿を消してしまったのである。



「もおーどこ行ったのよあいつ」
 一通り探し回った後、サニアが不機嫌そうに言った。
 例の地下室にもいない。途中の通路にもいない。道に迷ったのかもということで枝分かれした通路を全て探したが、誰かが通った形跡すらない。荷物が丸々残っているので街の外へ出たということはないだろう。第一、外は今だ凄まじい豪雨である。差し迫った用でもない限り、外に出ようとは思わない。
「あるいは魔物に喰われたのか」
 アルベルトがそう言うと、グラントが反論した。
「だとしても死体は残るだろ。ここの魔物、蝙蝠みたいな奴ばかりだぜ」
 確かにここには蝙蝠の魔物が多い。少なくとも人を丸呑みするほど大きな魔物がいる気配はない。
「ならやはりどこかで迷っているんだろうな。ここの地下水道はかなり複雑なようだし」
 地道に探すしかないのか。とにかく無事だと良いのだが。
 芳しい結果を得られなかった三人は拠点(ベースキャンプ)ではなく、例の地下室に戻ることにした。ダレンはいないのだが三人の研究家達とボリスが調査を続けているからだった。
「その様子だと、ダレンはいなかったのね」
相変わらず入り口のところで調査を眺めていたリゼが、帰還したアルベルト達にそう言った。その声に研究家達も顔を上げ、
「ダレン・・・いなかったのか・・・」
「全く人騒がせですわね。一体どこへ行ったのかしら」
 それぞれの反応を返す。心配しているようではあるが、調査を止めるつもりはないらしい。メリッサもしばし考え込んだが、結局調査を進めることにした。
「仕方ないわね。ダレンがいないけど、あの魔法陣に関する考察を始めましょう。レスター、図版を出してくれる?」
 レスターは鞄の中から紙の束を取り出した。紙にはあの魔法陣が正確に写し取られている。
「アルベルト君、この地下室にあるには本当にこの魔法陣で間違いないのね?」
「はい」
広げられた紙には円と逆さになった星が描かれている。その隙間や円の周りに書かれているのはたくさんの文字。それもただの文字ではなく、聖典や悪魔祓いの祈祷に使われる神の神聖文字である。ただし、上下左右が逆になっているが。
「逆五芒星――悪魔の象徴(シンボル)に、反転した神聖文字。これが悪魔召喚のものであることは間違いないわ。」
 五芒星は神と天使の印。ひっくり返すと悪魔の印に変わる。神聖文字も同様だ。魔法陣を巡る考察はそういった基礎事項から始まってどんどん発展していった。
「円は呼び出した悪魔を閉じ込めるための作用があって―――」
「この文字の意味は分かりますの?」
「ちょっと待って。今解読するわ」
 議論は次第に白熱し、他のことなど目に入らなくなっていくようだった。全く熱中を絵に描いたような人達である。アルベルトはそんな彼女達から離れ、入り口に立つリゼのところに戻った。
「・・・一つ意見を聞きたいんだが、いいか?」
「何?」
「昨日から気になっていたんだが、この魔法陣、動いているような気がするんだ」
「動いてる? これが?」
 リゼは怪訝そうに言った。
「特に何も感じないけど。というよりこの街に入ってからずっと悪魔の気配を感じてるせいでそれ以外のものはよく分からなくなってるから・・・・・動いてるってどういうことなの?」
何分感覚による話なのでアルベルトにも説明は難しい。彼は少し考え込むと、
「なんというか・・・・まだ停止しきっていないという感じなんだ。何かあればすぐにでも動き出しそうな、それぐらいの・・・・」
「何の話ですの?」
 突然、ティリーが二人の間に割って入った。いつの間に近寄ったのか、瞬間移動でもしたのではないかと思ったほどの唐突な登場である。
「びっくりした。魔法陣について話してたんじゃないのか?」
「ああ、メリッサとレスターが話を続けてますわ。貴方達が何か面白そうなことを言っているような気がしたので、聞きに来てみたんですの」
「どんな気よ。別に大したことは話していないわ。この魔法陣は動くのかっていう話よ」
 議論に巻き込まれてはかなわないと、リゼが適当な事を言ってティリーを追い払おうとする。しかしそれを聞いたティリーは言った。
「そうですわね。出来れはこれで本当に悪魔が喚べるのか試してみたいのですわ」
「・・・まさか本当にやる気じゃないでしょうね」
「あら、わたくしがそんな血も涙もない人間に見えまして?」
「そういう風に笑いながら言われるとなお信じられないわね」
「酷いですわ。わたくしは虫一匹殺せない心優しい人間ですのに・・・・」
 沈痛な面持ちを浮かべるティリー。しかしあまりに嘘っぽい言葉に、リゼが冷ややかな目を向ける。なんともいえない沈黙が流れたところへ、メリッサが声をかけてきた。
「ティリー。別の資料を取りに行きたいからいったん拠点(ベースキャンプ)に戻るわよ。ほらあなたたちも手伝って!」
 本と紙束の山を押し付けられたリゼとアルベルトは、仕方なくメリッサについて地下室を出る。グラントとサニアも同様らしく、レスターにボリスと一緒に紙束を運んでいた。皆が地下室を出て一人になったティリーはがらんとした地下室内を見回した。
「・・・でもまあ、研究には理論の実践も必要ですわよね」
 沈黙する魔法陣を見、ティリーは誰にも聞こえない声でそう呟くと、皆に続いて地下室を後にした。
 そして、その日の夕刻のことである。
今度はメリッサがいなくなった。



「うう・・・博士ぇ、どこ行っちゃったんですかぁ?」
 情けない声をあげながらボリスはすすり泣いた。師匠がいなくなったのがショックなのは分かるが、小さな子供よろしくずびずび泣いているさまはかなりみっともない。耐えかねたグラントが苦言を呈した。
「うるせーな。ちっとは黙れよ」
「ううっ、博士ぇ」
 効果なし。役に立ちそうもないので放置することにした。
「きっと何か重大な発見をしたんですわ。それを二人で独占にする気なんですのよ!」
 ダレンとメリッサの失踪に関して、ティリーは開口一番そう断言した。
「ティリー・・・・それならボリスを連れて行くはずだよ・・・・」
 というレスターの言葉も、彼女の考えを改めさせるには至らない。