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Savior 第一部 救世主と魔女Ⅰ

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「私が処刑されたら困るんじゃないかしら? 研究出来なくなるから」
「他の研究家に渡すぐらいならいっそそうしますわ」
至極真面目な顔で答えるので冗談なのか本気なのか分からない。まあ本気ではないだろう。多分。
「・・・分かったわよ。付き合えばいいんでしょう」
さっきからずっと同じ問答を繰り返している。相手をするのも面倒になってきたので半ば投げやりに承諾することにした。
「ありがとうございます! そう言ってくれると思っていましたわ! では、さっそく行きましょう!」
 スキップでもしかねない楽しげな足取りでティリーは通路の方へと歩いていく。一方、リゼは疲れきった様子で肩を落とした。
「全くなんでこうなったのかしら」
 なんだかいいように言いくるめられてしまった気がする。結局のところ四人の質問攻めは免れても、ティリーの質問攻めからは逃れられないのだし。
「でも意外だな。すっぱり拒否すると思ったのに」
 アルベルトが少々驚いた様子で言った。
「どっちにしろこの豪雨が止むまでここにいないといけないもの。何かしていたほうがマシね。それに、悪魔召喚には興味がある。“魔女”としては悪魔の喚び方ぐらい、知っておくべきじゃないかしら」
 そう言って、リゼは皮肉っぽく笑った。



 マリークレージュはやや縦長の盆地の中にすっぽりおさまっている真円に近い形の街である。中心点は教会でそこを取り巻くように役場や劇場が並び、直径にあたる大通りには宿屋や大きな商店が軒を連ねていたそうだ。
「それにマリークレージュには地方の街にしては珍しく水道設備が完備されていたそうですわ。今通っている地下道もその一部ですの」
 マリークレージュの西側から南側に回り込むように流れる川から水を引いているらしい。使い終わった水は同様に川へ排水しているのだという。
「今は水がないみたいだが、今日のような豪雨では水が溢れたりしないか?」
「大丈夫だと思いますわよ? 水門は閉じてありましたし、所々瓦礫で塞がっていていますから」
 とりあえず地下道で溺れる心配はなさそうだ。
「この通路の先が例の悪魔召喚が行われた場所なのね?」
「その通りですわ。街の中心部。すなわち」
 マリークレージュ教会の真下にある地下室。そこが悪魔召喚の儀式が行われた場所である。出入りには地下水道を通らなければいけない場所だ。どうやら悪魔教信者達は文字通り地下に潜って活動していたらしい。
「すぐ足元で悪魔召喚の準備が進められていたのに気付かないなんて、教会も間抜けですわね。しかもそれを隠そうとしてますし」
「そうね」
「・・・・・・・」
 二人の会話にアルベルトは複雑な表情を浮かべている。元・悪魔祓い師としては教会の失態と隠蔽がショックなのかもしれない。
「それで、調査のメンバーはあれだけなの?」
 リゼは前のほうを歩く研究家達に視線を移した。かなり距離が開いているので、向こうに声は聞こえない。
「そうですわ。この調査の発案者でリーダーがメリッサ。彼女は悪魔教について研究していて、悪魔召喚の儀に詳しいんですの。ダレンは魔物が専門で、レスターは魔法陣に詳しいのですわ」
「なるほどね。で、あなたは?」
「わたくしの研究テーマは『悪魔の倒し方』ですわ。ですから悪魔に関することなら何でも知りたいですわね」
 なにやら期待に満ちた目で見てくるのでとりあえず目を逸らす。リゼはこの短時間で、知りたがりなティリーに質問させないためにはこちらから質問すればいいことに気付いたが、うっかりすると変化球が返ってくるので注意が必要だった。
 そうこうしているうちに地下室へと着いた。
 地下室はかなり広く薄闇の中に沈んでいた。奇妙なことにほとんど埃が積もっていない。地下室の天井、教会の床にあたる部分はほとんどなくなっていて、吹き抜けのようになっている。教会の天井には穴は開いていなかったが、窓硝子は破壊されていてそこから雨が吹き込んでいた。
「やはり目ぼしい物はなさそうですね」
 地下室内を見回したダレンが淡々と言った。グラントとサニアが置いて回った松明のおかげで部屋の中は少し明るくなっている。地下室はからっぽで、見渡す限りなにもない。
「悪魔召喚に必要なのは、蝋燭、火桶、樟脳(しょうのう)、石炭、ブランデー。血玉髄(ブラッドストーン)に子山羊の皮で作った紐。子供の死体が入った棺から抜き取った釘四本。そして何より重要なのが、生贄と魔法陣」
 部屋の中心に向けて歩を進めながら、メリッサがぶつぶつと呟いた。
「道具類は教会が押収していったでしょうけど、魔法陣の痕跡を完全に消すことは難しいわ。前回の調査では分からなかったけど、今度こそ見つけてみせるわよ。ダレン、レスター、ティリー。あなたたちは向こうの方をお願い。ボリス! ぼうっとしてないで手伝いなさい!」
「は、はい! 博士!」
 鞄を抱えたボリスがメリッサのところへ走っていく。ティリー達は地下室の検分を始め、グラントとサニアは魔物がいないか警戒を始めた。なんだかんだ言ってきちんと仕事はするようである。リゼは入り口から動かず、その様子を眺めていた。
 一方アルベルトはといえば、ティリー達に混ざって地下室の床を観察して回っていた。悪魔祓い師として悪魔召喚の儀式のことが気になるのだろうか。やがて彼は顔を上げ、
「魔法陣ならここにある」
 そう言って床を指差した。そこは入り口から十歩ほど進んだところだ。
「ここに? 何もありませんが・・・・」
 驚いたダレンが床を見回すが、特に何も見当たらない。他の研究家一同もアルベルトの突然の申告に言葉が見つからないようである。唯一レスターがさっと進み出て、アルベルトに質問した。
「・・・・どんな魔法陣なんだ?」
「円に五芒星、それに文字のようなものが・・・・書いた方が速そうだな」
 レスターがすかさず紙とペンを差し出した。受け取ったアルベルトはそれを図形と記号で埋めていく。曲線に直線、それに奇妙な文字。これが遥か遠く、部屋の向こう側にまで広がっているらしい。部屋を歩き回ってようやく図を完成させたアルベルトに、メリッサは驚愕の面持ちで問いかけた。
「どうしてこんなことが分かるの? あなた何者?」
「いや、他人には視えないものが少しばかり視えるというだけで・・・」
 そうだった。アルベルトは変わった眼の持ち主で、悪魔やら幽霊やらとにかく色々なものが視えるらしいのだ。アルベルトにとっては魔法陣の跡を見つけることなど造作もないのだろう。
「少しばかりって・・・・驚いたわ。そんな能力があるなんて。ティリー、あなた一体どこでこんなのを調達してきたの?」
「ふふ。ひ・み・つ、ですわ」
 どこでって、ここマリークレージュでつい数時間前に、なのだが、ティリーはそんなことおくびにも出さない。ティリーだってアルベルトの眼のことは今初めて知っただろうに。
「とにかくこれで魔法陣のことが分かりましたし、想定していたよりも早く終わりそうですわね」
「そうね。これがあれば悪魔研究家(われわれ)の研究はさらに進む・・・・・教会に知識を独占させはしないわ」
「そうです。教会の奴らに市井の研究家の意地というものを見せてやりましょう」
「・・・・・賛成」