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Savior 第一部 救世主と魔女Ⅰ

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「わたくしは悪魔研究家なのですわ。悪魔祓い師でなくとも悪魔を倒せる方法を研究していますの。その研究のために貴女の協力が必要なのですわ」
「私には協力出来ることなんてないと思うけど」
「まあ、とぼけなくても良いじゃありませんの。貴女でしょう? 悪魔祓い師のいない町や村に現れては、悪魔を祓い人々を救うという“救世主”は」
「人違いね」
「いいえ貴女ですわ。だってアルベルト・スターレン(悪魔祓い師)と一緒にいるんですもの。ね、ラオディキアの教会から逃げ出した魔女殿?」
 ティリーの何気ない一言で、さっと空気に緊張が走った。身構えるリゼとは裏腹に爆弾を投下した本人は、世間話をするかのような口調で話し続ける。
「少し前、神聖都市ラオディキアに一人の魔女が現れた。魔女は自身を救世主と称し、貧民街の住民は魔女を崇拝した。もちろん教会はすぐさま魔女を捕まえて教会牢に閉じ込めた。けれど魔女は脱獄した。一人の悪魔堕ちした悪魔祓い師を連れて。これは貴女達のことでしょう?」
「・・・・・詳しいんだな。どうやって知ったんだ?」
 アルベルトが問いただしても、返ってきたのは人を食ったような答えだった。
「風の便りで。まあそんなこと、どうだって良いじゃありませんの。わたくしにとって重要なのは、救世主であり魔女である人。リゼ、貴女に会えたことですわ」
 灰色の瞳がそれはもうきらきらと輝いている。探究心とか情熱とか、そういったものが色々混ざり合ったティリーの気迫に気圧されて一歩引こうとしたが、どこにそんな力があるのかというぐらいしっかり手を掴まれているのでそれも叶わない。
「断る。あなたに付き合う義理はない」
 リゼは渾身の力でティリーの手を振り解いた。反動でティリーはよろめいたが、なおもリゼに詰め寄ろうとする。その彼女に今度はアルベルトが質問した。
「ところで君はマリークレージュで何をしているんだ? ここには何もないだろう」
それに対してティリーは当たり前のこと聞かれたような様子で答えた。
「何もないですって? いいえ、ありますわ。悪魔召喚の痕跡が、ね」
「何だって! それは本当か?」
「もちろん。嘘ではありませんわ」
 ティリーはにっこり微笑んで、招待客を出迎える主人のように礼をした。
「ようこそ。悪魔召喚の犠牲となった街、マリークレージュへ」



 神聖アルヴィア帝国の国教、その正式名称をマラーク教と言う。神を信じその教えを守る者は、神によって救われる。苦悩多き今生で救いを得たければ、悪魔の誘惑に負けぬ篤い信仰を持たなければならない。
 しかし神に救いを求めぬ者もいる。世俗的で物質的で自分勝手な願いを叶える為に、悪魔と契約する道を選ぶのだ。退廃を美とし悪徳を是とし、我欲のために悪魔を崇めること。それはいつの頃からか悪魔教と呼ばれるようになった。
 悪魔召喚は悪魔教の信者にとっては重大な儀式であろう。何せ彼らの『神』を呼び出すのだから。だがそのためには多くの生贄が必要だ。人攫いや行方不明者が増えたと思ったら、その近くで悪魔召喚の儀式が行われたということがあったりする。過去、村一つが犠牲になったという事例も少なからず存在する。
 とはいえ、マリークレージュほどの規模の街が丸ごと悪魔召喚の生贄されたなど、前代未聞の事態だといってもいいだろう。
「マリークレージュは聖地巡礼の通過地点であった街。それが悪魔召喚の犠牲になったとなれば、教会の面目は丸つぶれ。だから教会はマリークレージュが滅びた原因を地震だなんて言ったんですよ。もっとも実物を見てみればそうでないのはすぐに分かります」
 そこでダレンという名の悪魔研究家は眼鏡の位置を直した。
「そうね。しかも地震だなんて言っておきながらわざわざ見張りを置いて封鎖しているし。おかげで今の今まで調査が出来なかったわ」
 褪せた赤毛の研究家・メリッサが不満たっぷりに言う。続いて同じく研究家のレスターがぼそりと言った。
「・・・・・その分、今回頑張らないと」
「もちろんですわ。やりますわよ、皆さん!」
 研究家達が盛り上がりを見せる一方、
「でもこんな廃墟調査に付き合わなきゃいけないなんて。埃っぽいしなんか不気味だし。そのくせダレンは報酬をケチるし。もう、信じらんない」
「確かにな。ダレンの奴、オレ達を便利屋扱いしやがって」
 不満タラタラなのは、薄汚れた茶髪の体格のいい男・グラントとその彼にべったり引っ付いた派手なピンク髪(あれはおそらく染めている)サニアだ。ダレンの護衛であって研究者ではない彼らにとって学術的調査はどうでもいいことなのだろう。
「で、でも、この調査で悪魔に関する新たな事実が発見されるかもしれないんだよ? それってすごいことじゃないか・・・・」
 弱々しい声で抗議したのはボリスという名の赤ら顔の小柄な男だ。メリッサの助手で弟子である彼には調査に対する熱意があるのだが、もちろんグラントとサニアには通用しない。
「そんなのあたしたちには関係ないもん。あんなの何が面白いって言うの? だるいだけじゃない」
 サニアに全否定されたボリスは俯いてぼそぼそと否定の言葉を呟いた。どうやら自分の意見を強く主張できないタイプのようだ。
「なあ、あんたらも手伝わされてるクチだろ。廃墟調査なんてやってらんねぇよな」
「・・・・そうね」
 グラントに話を振られたリゼは心から同意して深々とため息をついた。
ティリーの言うマリークレージュの調査には彼女を含めて四人の研究家と護衛及び助手三人によって行われるらしかった。
 ダレンとその護衛グラントとサニア。メリッサとその助手ボリス。助手も護衛も連れていないレスター。あとはティリー。以上が調査のメンバーである。
 そしてリゼとアルベルトはといえば、ティリーに無理矢理連れて来られた挙句、『わたくしの護衛に助手ですわ』と研究家達に紹介されてしまったのだった。
「何で私達があなたの護衛に助手なの」
 ややこしい事態を避けるべく他の人達がいない場所までティリーを引きずったリゼは、不機嫌全開で彼女に詰め寄った。
「だって他に思いつかなかったんですもの。通りすがりの旅人です、なんて言ったら怪しまれてしまいますし」
「と言われても通りすがったのは事実なんだが・・・・」
 アルベルトの呟きをティリーは完全に無視した。
「他の研究家達は“救世主”の噂についてわたくしほど詳しく知りませんわ。それに研究以外では純粋な方々ですから、わたくしの助手だと言っておけばまず疑ったりしません」
 それに、とティリーは続けた。
「貴女が“救世主”だとばれたら、あの人たち全員に質問攻めにされますわよ? それでもいいんですの?」
「うっ・・・・」
「どうせしばらくここにいるのでしょう? わたくしの助手ということにしておくほうがいいと思いますわ。ご心配なく。これが終わったらすぐにあなたの能力について調べさせて頂きますわ」
「さっきも言ったでしょう。あなたに付き合う義理はない」
 あくまで冷淡に言い捨てる。だがティリーにはめげる様子も諦める様子もない。むしろ笑顔を浮かべると、
「研究に協力してくれないと言うなら・・・・・教会に通報しますわよ」
 などと脅迫めいたことを言い出した。