世界とセカイ
◆
変わった宇宙。変わった地球。変わった日本。変わった愛知県。変わった町。変わった俺。
すべてがおかしいこの町が、セカイが。俺は嫌いだ。
聞こえるのは銃声か、うめき声。そんな物がこのセカイを埋め尽くしていた。
「貴様ァッ!! こちらを向け!」
図太い大人の怒号が俺に向けて発せされる。
「ふぅ……」
めんどくさい。何度目のやりとりだよこれは……。
ため息をつきながら両手を上げ後ろを向く。眉をひそめ、その大人を睨みつける。
「俺は『貴様』じゃない。俺は石田岳登だ。まぁ、『様』っていうのは良いから、岳登様とでも呼ぶが良いwwwww」
「な、何を言っている!……動くな、動くんじゃ無いぞ!動いたら撃つ!分かったな!?」
そういうと、腰のベルトからハンドガンを取り出すと威嚇とばかりに一発壁を撃った。
「いやいや、何回動くなって言ってんだよw別に動かねぇよ」
「それと、喋るな!」
銃を構えながら俺が武器を持っていないか手で触って確認を始める。
「あのさぁ、おじちゃん」
「喋るなと言っているだろう!」
おー怖え。まったく、いい大人がいらいらしちゃってぇ。思春期かよw
「このセカイ、弱肉強食だよね」
俺はいつも通りのトーンでその大人に説いた。
どうやら武器の有無の確認が終わったようで大人は銃をおろすとこう言った。
「そうだな」
「でさぁ、俺はきっと『強』の方なんだよ。だからさ」
「ほう、でなんだ」
大人は優しく俺に聞き返した。
そして俺の言葉を聞くと、突然青ざめた顔になった。
「『弱』のおじちゃんを食べさせてもらうわ」
大人の確認しなかった二の腕に隠し持っていたサバイバルナイフで首にある頸動脈を切り裂く。刹那赤黒い血液が盛大に噴き出し、そこを押さえながら大人は倒れた。
あっという間の決着であった。
「ま、実力の差かな?」
そう言うと俺は腰のホルスターごと銃を頂戴した。
血液不足で貧血を起こし、もう死亡は目に見えているその大人にこう吐き捨てた。
「セカイと世界は違うんだよ、常識がな」
と。
そして自ら自分にこう促した。
(早く、早くしないと……。早く『世界の俺』に……、会わないと)
----世界もセカイも終わってしまう----
●
「さて、行こうか」
二の腕にはサバイバルナイフ。腰にはハンドガン。服装は至って普通の謎のファッション(?)で、『歪み』の前に立っていた。
(まぁ、見送りは無いよな~)
世界とセカイを繋ぐ唯一の道、『歪み』はある場所に行くと希に発見されるという場所。
そのある場所とは----
----『政府直属組織・第三機動部隊<春風>最終防衛ライン』
フゥッ、とため息を一つつきハンドガンの残弾を確認する。
「今日は見つかるかなぁ」
何回目の調査だろう。
突如出現する『歪み』は今だ真相が解明されていない。
どこでどう出現するのかすらわからない。そのため『歪み』がある事自体すでに嘘と言われ始めていた。
事実、最近『歪み』を見たという人物は一切見つかっておらず何の手がかりすらつかめていなかった。
「おい、貴様!手を挙げこちらを向け!」
後ろで数人の気配がすると思ったら、早速のご登場か。つーか何度目だよこれww
そう思いながら指示通り後ろを向く。
なかなか優秀そうな警備員に、軽機関銃にアサルトライフル。見た感じフル装備じゃん。
おそらく、『歪み』を求めて犯罪者が逃げようと武装してやってくるからだろう。
「あの~、この辺りで『歪み』って出ました?」
「黙れ!」
俺の質問に不思議な回答をした。
「だからぁ、『歪み』って出ました?」
「だから黙れと言っているだろう!?」
「だからさぁ……」
「黙れッ! 黙れと言ったら黙れ!」
「こっちが先に質問してんだろうがコラァァァッ!!!」
刹那、一番左にいた警備員にナイフを投げつける。
(敵は三人、行けるな)
グッ! と目元に力を込める。
すると、目の色が変わる。ひとみが青く輝き、虹彩が真っ黒に染まる。
セカイの住民の代名詞、俗に言う『鬼神化』。
使用時間は限られているが、一時的にパワーアップ!セカイの住民の最終奥義だ!
……と言うことだ。
外見的に変わるのは目のみ。しかし、筋肉の強化はしっかりと完了しているらしく、たった一回のジャンプで、10m程あった警備員との距離は一気に縮まった。
「なっ!こいつ、使えるのか!?」
ハンドガンを取り出し、右の敵の眉間へと一発撃ち込む。同時に先程投げたナイフが左の敵に突き刺さる。
「はい、終了!」
最後に中央の敵をジャンプの勢いを利用し、顔面を足蹴りする。
「くはっ……!」
鼻が折れ、半分意識が飛んでいるその敵にやはり正確に眉間を撃つ。
この手の作業は手慣れている俺は、そのままナイフを抜き取りその場所を去った。
(この場所にも敵か。彼奴らも危険視しているのか)
世界とセカイの住民の交信を。次なる世代の誕生を。
この腐った世界を正常に戻すための、起爆剤の出現を。
おそれているのだろう。
彼らが。このセカイの政府が。このセカイの王が。
俺たちを。