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短編集 1

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あわふきそら






 空を見上げればそこには雲一つない快晴が広がっていた。たまに思う。こうして空が快晴であった時に限って、何故か不幸なことが起こる、と。決まっているわけではないけれども、大抵気付いて見上げれば空は快晴。きっと天が俺を嘲笑っているのだろう。楽しいことがある日は大抵雨が降るから。
 そう考えていたら、虚しくなってきた。
 俺は一体なんのために生まれて、誰のために死ぬのだろう。堂々巡りのような無意味な疑問を唯々繰り返しているばかりで、一歩も進みはしない。その場で足踏みをしていても、前に進めないのと同じ。進んでいたとしても、その先は輪になっているのだろう。面白くもなんともない結末にしか、繋がってはいないのだろう。


「…眠い」


 自分が生きているせいで誰かが悲しむのは当然。そして、自分が生きているおかげで誰かが少しでも幸せな気持ちになるのも当然。人間は人を幸せにしながら同時に違う人間を不幸にしているのではないだろうか。この考えに賛同してくれる人間を募集しています。
なんて。


「馬鹿みてー」


 いい歳になって、自問自答とか。恥ずかしいにも程があるな。周囲に誰もいなくて良かった、変人だと思われない。
 いや、では逆に周囲に変人だと思われて俺にとって不都合なことはあるのだろうか。所詮噂は噂だし、事実は事実だ。気にする必要などないのではないだろうか。それでも、こそこそと話されるのは、気持ちのいいものではないか。俺が割り切れないこともまた、悪いのだろうな。
 けれど、人間みんな悩んで迷って探して落ちて上って歩いて座って立ち止まって見上げて見下ろして後退して笑って泣いて怒って怖がって怯えて苛ついて憎んで喜んで恨んで願って祈って望んで求めて突き放して生きている。そのどれか1つでも欠けているならいるで、また興味深いだろう。
 俺みたいな奴は、この世にごまんといる。自分の価値が見いだせない奴、自分の価値を見出そうと思わない奴、自分の価値を見出している奴、自分の価値を見出さずに順風満帆な生活を送っている奴。どれに当てはまるだろうと思った時、簡単に一番初めのものに当てはまる。要するに、今現在で無価値な人間ってことだ。自分の代わりなど、そこら辺を探せばうようよいるだろう程度の人間。仕事では、俺以上にできる奴だって社内には数え切れないほどいて、恋人だって「大好き」「愛してる」なんて言葉を囁いたところで、心の底から想われているかと訊かれたら、「さあ、どうだろう?」と鼻で笑える。お眼鏡に掛かる男がいなかったから、平凡そうな俺を彼氏にしたってところだろう。自分から見ても、扱いやすそうだしな。兄弟の中で俺は真ん中で、出来は良くも悪くもなかった。つまり、普通、平均、凹凸無し。両親は平等に兄弟に愛情を注いでいた。良くも悪くも、その程度。
 ただひたすら、ぼぅっ、と、そんなことを考えていた時、ぽんっ、ぽんっ、と、少し先の地面に子供用のサッカーボールが転がってきた。数メートル先では少年たちが、誰がボールを取りに行くかでちょっとした揉め合いになっている。誰でもいいから来ればいいのに、と内心苦笑いしながら、重い腰を上げる。そしてボールを手に取ると、軽く少年立ちのいる場所へと投げた。


「おーっ!ありがとーっ!!」


 そんな声に手を振って応じると、彼らは再びサッカーをし始めた。小学2〜4年辺りだろうか。先週の土曜、近くの小学校で運動会があったと風の噂で聞いたから、その振替休日なのだろう。楽しそうにボールを蹴りながら、ゴールに見立ててあるエリアへ勢いよくシュートを決める。自分にもそんな時代があったな、なんて、感傷に浸りながら公園に背を向けた。
 憂鬱だ。こういう気分の時は決まって、追い打ちを掛けるように、嫌なことが起こる。
 すると、図ったようにこのタイミングで携帯電話が振動した。マナーモードにしているままだったことをすっかり忘れて、慌てて電話を取る。


「もしもし」
「あ、京輔?あのね…」


 あー、声色からわかる。俺以上に都合のいい彼氏ができたんだろうな。皆まで言わなくてもわかる。というか、既に予測済み。


「別れて欲しいの」
「あー、はいはい、OKわかった。じゃあな」


 一方的に電話を切ると、どうしても遣るせない気分になった。俺、これから目標もないままどうやって生きていこうか。
 あー、今絶対ェ空は爆笑してる。お前またかよ、ザマァって。うわー、嫌だわ。
腹が減ったから昼食を摂ろうと思い、近くのファミレスに足を向けた。案内された席は、やたら大食いの高校生がひたすら食べながら、その友人と思われる少年に何か相談をしているようだった。他人の相談を盗み聞きするような趣味はないが、聞こえてしまっているものはしょうがないだろう。


「いや、俺たちとか含めてさ…人間が存在する意味なんてあるのかなって」


 自分の存在意義について考えているのが、俺だけじゃなくて安心した反面、まだまだ青春を謳歌できて、尚かつ人生これからという高校生がそんなブラックで陰気な話題を話の種にするのはいただけないんじゃないか。
 と、会社に就職して2年の20代中頃の俺が言えた義理じゃないが。
 相手の少年がひたすらに罵った後、返事を出した。俺はその間に、ほうれん草のバター炒めとチャーハンを頼んだ。


「俺が思うにさ…人間に限らずこの世界に存在するありとあらゆるものに意味なんてないんじゃねーの。結局は物理で生まれたものだろ?子孫存続とかいう本能さえなければ誰もなにも残ってない程度の存在じゃねーのかなぁって」


 考えが大人すぎて、大人な俺が着いていけない。どんな教育されたんだよこの少年。
でも、それもまた一理あると納得しながら水を飲んでいる自分がいる。けど、この考えは物理的なものに関してだから、人間同士の関係上の存在理由については語られていない。それがなんとなく虚しくて、少し溜息をつきながら一気に水を飲み干した。水をおかわりしに行く前にと、携帯を出して弄り続けていた時、また隣から声が聞こえてきた。


「じゃあ、各々人間の存在理由は?」
「は?各々って、佐藤が、とか…俺が、とか?」
「そうそう」
「それこそ、それぞれ違うだろ。俺の持論を無視するんだとしたら…まぁ、なんていうんだろうな。影響を与えるっていう意味合いでは、どの人間でも存在する意味はあるんじゃね?生きていれば、否が応でも接触はするだろ。愉快だろうが不快だろうが、その具体的な形を指定しないんならな」
影響を与えるという意味合いでは、か。どんな影響であろうと、形とかにこだわらなければ人それ

 ぞれ存在する意味がある。子供に諭されるとか、俺ってどんな大人だよ。結局、空が嘲笑ってるとか言いながら、自分を悲劇のヒーローに仕立て上げてたんだ。ぬるま湯に浸かりながら生きてきていたんだから、俺より冷たい水の中で生きてきた人間の辛さや、持論や、考え方を、俺が思いつくはずもない。家族は至って普通の核家族世帯で、障害やトラブルも特に抱えてはいなかった。家のローンがまだ少し残っていたくらいで、もう少しで完済できるということも聞いていた。家柄は中の中。ごく普通の一般家族だ。
作品名:短編集 1 作家名:海山遊歩