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短編集 1

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「その人間の細部まで知り尽くした後じゃないと自分の考えははっきりと口には出せないし、一概にも言えないけどさ、大抵そういうことを言うやつは恵まれてるよ。多分、自分が死んだって〜っていうセリフを口に出して、誰かが庇ってくれることを望んでる」


 さっき言ったとおり、一概には言えないけど。と付け足してから、もう一度白米を口に入れる。弁当箱に入っている冷めたご飯の味がする。


「…じゃあ[あんたが死んだって誰も悲しまないわよ]って言われたら?」
「……お前、本当今日どうしたんだよ」
「いいから、いいから」


 誤魔化すようにへらりと気の抜けたような笑みを浮かべて、俺の意見を促す。釈然としないと思いながらも、考えを口に出す。


「さっき言ったみたいにさ、その人間のことを知らないと一概には言えないし、あくまでも俺の考えだけど。言われた方じゃなく、言った方の人間は相手のことを知らないんだろうなとは思ったよ。聞いた時の印象としては。深く考えてはいなくて、感情的に浅はかに言ったと思う。事実を言った、というより相手を傷付けるためにっていう感じ」
「そっかー」
「…俺も答えたんだから、お前も答えろよ」
「いいじゃんか、別に」


 口を尖らせて、特に可愛くもない仕草で再度誤魔化そうとするけれど、納得がいかないこちら側としては煩わしいだけ。けど、1つだけ仮定をたてられる。そんなことはないだろうな、という先入観が邪魔をするけれど、この世に所詮[絶対]はない。


「お前、言われたのか?」
「……何を」


 一瞬だけ表情が固まってから、ストローを口に銜えてぼこぼこぼこと、ジュースに息を入れて泡を立てる。


「小学生みたいなことするなよ…」
「面白くね?」
「全然」


 首を横に振ると、「ちぇ」と言ってまた笑う。また誤魔化されたか、と思って口を開こうとすると、それよりも先に佐藤が口を開いた。


「スギの言うとおり、言われた」
「…誰に」
「母さんに」


 そう言った佐藤の表情は、もう笑ってはいなかった。


「今日、昨日みたいに学校行こうと思ってさ、普通に玄関から行こうとしたんだよ」
「…うん」
「そしたらさ、いきなり頬殴られてさ[あんたなんていなくなればいいのに]って言われた後、[あんたみたいな子、死んだって誰も悲しまないわ]って言われたんだよねー」


 背もたれをギッと言わせてから、天井を仰いだ。なるほど、それでか。と簡単に受け入れられる自分と、なんてこと息子に言ってんだよという、その事実をにわかに信じ難い自分がいた。今まで天真爛漫で真っ直ぐで、何でもかんでも自分1人で解決してきたこいつが、初めて俺の前で落ち込んで、弱音を吐いている。佐藤には悪いけどそれが俺にとっては嬉しくも思えた。けど、それと反対にその言葉を鵜呑みにしている佐藤に、少しだけ腹が立った。
 やっぱり、こいつは世間どころか情知らずだ。


「自分の母親だぜ?そんな人が[死んだって誰も悲しまない]って言ったなら、結構くるだろ?」
「まー…な。辛いっちゃ辛いけど、やっぱその母さんわかってないって」
「何で?」


 悲しげな顔をしながら聞いてきた佐藤を見て、小さく笑った。











「俺、親友死んで泣かないほど薄情者なつもりねーんだけど」













――――――――――…うつろそらEND(2012----)201205--以前
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作品名:短編集 1 作家名:海山遊歩