短編集 1
そんな俺が、三世代世帯で、兄妹の中に身体障害者を持っていて、母親と祖母が鬱病に罹っている人間の持論や経験や考えなんて、理解できるはずもないんだ。母子世帯で、母親が酒浸りになって暴力を振るわれながら学校へ平然と行って、朝に「あんたなんていなくなればいいのに、あんたみたいな子、死んだって誰も悲しまないわ」なんて言われた人間の心も理解や、ましてや同情することなんてできない。同情できるほど、俺の心は着いていけない。
彼らにとってそれは日常のことで、俺からしたら非日常の風景なんだ。
「俺、親友死んで泣かないほど薄情者なつもりねーんだけど」
その言葉を聞いて、いい友達持てて良かったな、なんて他人事だけど思ったり。本当に不安で、本当に心から悩んでいる時に相談できる相手がいるっていうのは、とても羨ましいことだろう。俺にはそんな人間はいないから。その場のノリとか、適当に流すような付き合いばかりしてきたから、真面目に話したりすることができなかった。隣の彼らを羨望する反面、少し嫉妬してしまうけれど、俺もこれから作っても遅くないか、と、ようやくやってきた料理に手を付けた。
ファミレスから出た後の空が、清々しいくらいに快晴だったのに、どこか清々しくて、どこか微笑ましかった。右からやってきた大きな雲が、ビールの泡を零したような形に見えたのも、また気のせいだろう。
これから自分のしたいことでも探そうか。
大きく伸びをして、俺は喧噪が続いている街道を歩いて行った。
――――――――――…あわふきそらEND(20120609)
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