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「舞台裏の仲間たち」 19~21

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 そして、次第に彼女に対しても強い恋心を抱くようになります。
そんな中、彼女の夫が浮気しているという相談を受けてしまいます。
自らの恋の気持ちに悩み、黒光への抑えがたい気持ちを封じ込め、
碌山はひたすら作品作りに取り組みました。

 一方黒光は、そんな彼の気持ちを知りつつも妊娠もしており、
子供もいるために、夫と別れることが出来ず、
碌山も、悶々とする日々を送ることになります。


 出口のない悶着の中、
碌山は密かにこの「女」を制作します。
背中の後ろで結ばれた両手には、現状への絶望感を表しており
一方で天を仰ぎ見ているその姿勢には、生きる希望を表現させました。


 黒光の中に有る厳しい状況を認めつつも、
運命にあらがう人間の強さを見い出して、励ます気持ちが
こめられていました。
やがて絶作となる作品、この「女」が完成をします。
この作品が完成した1ヶ月後に、碌山は、相馬夫妻の家で
突然血を吐いて倒れ黒光に看取られて、その生涯を閉じることになります。

 おばあちゃんと長い間、「女」を挟さんだまま立ち続けて、
会話をつづけていた茜が、すこしだけ白い顔をして中庭へと出てきました。
外気の寒さに少し襟を立ててから「労働者」の彫像を眺めていた
私の背中へやってきました。


 「ねぇ、黒光って・・・知ってる?。」

 
 「穂高にある相馬家に嫁いだ明治の女性だよ。
 仙台生まれで洗礼も受けたという、星良(ほし・りょう)という才女だ。
 黒光というのは、いまでいうペンネームみたいなものだね。
 文学への造詣も深く、芸術家たちのサロンを作った
 明治時代の中村堂と言うパン屋さんのはなしは、
 あまりにも、有名だよ。」


 「う~ん、
 無知はやっぱり、私だけか・・・
 情けない。」


 「そうでもないさ。
 初めて観光のついでにこの美術館を訪れて、
 碌山と、「女」という作品に触れて、
 驚きや、衝撃を受けた人たちはたくさんいるよ。
 かく言う私も、その一人だった。」


 「そうなんだ、
 知らないことってたくさんあるもんね。、
 こんな小さな美術館で、
 人の人生の真髄まで見るとは思わなかった。
 ねぇ、それでさあ・・・」


 茜の声が鼻にかかってきました。
お願い事や、おねだりの時に、決まって出てくる
はっきりとした兆候でした。

 「いいよ、
 何でも聞いてあげる。」

 「やっぱり!
 それでねぇ、・・・
 穂高の見どころを、たくさん、
 あのおばあちゃんから、教えてもらいました。
 そこを若い二人で、充分に楽しんでいらっしゃいって。
 とっておきの場所まで、伝授してもらいました。
 ほとんど一日がかりになりそうなほどの
 盛りだくさんなのよ、
 それでさぁ、その先のことなんだけど・・。」



 「その先のこと?」