ACT ARME2 訪問者と落し物
「その、因果応報上等って考えがいやなんだよ。傷つけられたら傷つけて当然とか、そんなことして何になるのさ?ボクがこの力を持っているのだって傷つけるためじゃない。助けたいからなんだよ。」
「あなた・・・・」
「何?」
「甘っ。臭っ。」
「うわっ、酷!!ばっさりと切り捨てられた!?」
「切り捨てられて当然じゃない?あなたが何歳なのかは知らないけど、いまどきそんな青臭いこと言ったってモテないわよ?ていうか、むしろ引かれるわ。」
非道な言葉を前に、成す術を無くしたレックは、救済を求めるように後ろの三人を見た。それを受けて三人が差し伸べが差しのべた救済の手。
「ごめん、これは言い返せないわ、流石に。」
「これはフィンドさんの方に同意せざるを得ないですね。」
「少し鳥肌立っちゃった。」
・・・訂正。三人が差し伸べたのは救済の手ではなく、フィンドに対する合いの手でした。
「悪かったね、甘臭くてさ。どうせボクは腐った桃の芳香剤の臭いしかしないんだよ。」
「あーあ、すねちゃった。」
「あれだけ言われたら誰だってすねるか。」
言った張本人は完全に他人事である。
それから少したった後、立ち直ったレックが立ちあがった。
「まあ、自分でやるんだって決めたことなんだし、だれにどう言われようと仕方ないけどね。とにかく、勝負には勝ったんだし、ボクのリストバンド返して。」
しっかりと返却要求をするレックに、しぶしぶながらもフィンドは持ち主に返した。
「はいはい。わかったわよ。そんなに大切なの?これ。」
「大切なの。世界に二つとないんだから。」
こうして、若干の紆余曲折があったルインの初仕事は、成功を収めた。
数十分後、ルイン宅。
「今回はありがとう。おかげで助かったよ。それで、報酬のことだけど、いくら払えばいいのかな?」
とレックは、忘れかけていた依頼者の立場に戻り、報酬の額を聞いてきた。だが
「え?ああ、報酬はいいや。」
こっちのほうは全くその自覚がない。
「え?いやいや、それは・・・」
レックが皆まで言う前に、ルインが続ける。
「だってさ、今回の依頼に対して僕なんかやった?」
「う・・・・・・。」
否定したいが、正論ゆえに返す言葉が見つからない。
「まあ、ぶっちゃけお金には困ってるけどさー、ただ働きの報酬泥棒ってのもねぇ。あんまり後味良くないというか・・・。というわけで、報酬はいいや。」
珍しく殊勝なことをいうルインに、周りは驚いていたが、やがてアコが褒める。
「たまにはいいこと言うじゃない。そうそう、『わるぜにはみつかず』って言うしね。」
「え?」
「え?」
「え?」
アコとレックとルインの「え?」が見事にシンクロし、しばし膠着する。それを打ち砕いたのは、ツェリライの冷静な突っ込みである。(二度目)
「アコさん。それを言うなら『あくせんみにつかず』です。」
「あれぇ?いつから・・・」
「この言葉が生まれてからずっと変わっていないと思います。まったく、何故出来の悪い教え子をもった国語教師の体験をしなければならないんですかね?」
「い、いやあ・・・。それほどでも。」
「褒めてません。全く。」
全く、せっかくいい感じの話になっていたのに台無しである。 (これも二度目)
「それでさ、レック。ものは相談なんだけど・・・」
と、突然話を切り出したルイン。この段階でアコとツェリライは、経験上嫌な展開が待ち受けることを予測できたが、出会って一日もたっていないレックにわかるわけない。
結果、自ら蟻地獄の中心部へと身投げする形になった。
「うん、相談って何?」
蟻地獄の主は、躊躇いなく獲物を飲み込む。
「レックって、何か目的があって風来坊やってるわけじゃないんだよね?」
「うん、まあそうだね。」
「この先、行くあてとかはあるの?」
「いや、ないよ。」
「そう。じゃあさ、この家に住まない?」
「うん ・・・・・え?」
鳩が豆鉄砲の直撃を受けた顔をするレック。ルインのターンは終わらない。
「いやー、見てもらったらわかると思うけど。この家、ひょんなことで自治会からもらった家でね。一人暮らしするには大きすぎるんだよね。」
「ま、まあそうだね。それで、なんでボクが住むっていう話に?」
「いやね、やっぱりもらった以上は有効活用したいんだけど、一人だと限界があるなって思い始めてさ。だからレックを勧誘するわけ。」
「うん、まあ気持ちはわかるけど・・・。」
「どう?家賃はタダだよ?」
最後の一撃。
決して押しに強くないレックには、十分すぎる威力をもっていた。
しばらく悩んだ末、レックが答える。
「じゃあそう言ってくれるのなら、お世話になろうかな。ボクも一人で風来坊するのには疲れてきたし、役に立てるんだったら、それでいいよ。」
「よし、交渉成立!じゃあ、あとで住民登録しないとね。」
素晴らしくイキイキと積極的に話を進めだすルインを見て、嬉しそうな顔をするレック。
(これは・・・・)
(地獄を見るわね・・・・)
ただ二人、アコとツェリライだけはレックの行く末を案じつつ、心の中で合掌した。
実際、それが現実となるのは、そう遠い日の話ではなかった・・・
作品名:ACT ARME2 訪問者と落し物 作家名:平内 丈