「舞台裏の仲間たち」 16~18
「春になったとはいえ、
まだまだアルプスと、安曇野の朝は冷え込みます。
こんな取り柄のないわさび田がすっかりお気に入りの様子ですが、
お若い人たちにしては、とても珍しいことです。
たいしたものではありませんが、
風邪などをひかないように、お腹を温めておいてください。
あら、私としたことが、
突然現れた上に、せっかくの仲が良いところまで
お邪魔をしてしまったようです・・
長々と、失礼をいたしました。
では、ごきげんよう。」
「あの・・・
お水は、冷たくはないのですか?
朝早くからの、お仕事のようですが。」
「ありがとうございます。
もう長年の仕事ですので、すっかりと慣れました。
湧水は思いのほか、温かいものです、
といっても、
年間を通して、12~3度の水温ですので、
今の外気よりは、ほんのすこしだけ温かいだけです。
こんな朝は、こうして河から水蒸気があがり、
それが、河霧や、朝もやのようになるようです。
今だけの、とっておきの景色です。
おイモさんは、温かいうちに是非どうぞ。
只の、田舎のご馳走です。」
それだけ言うとこのご婦人は、
またじゃぶじゃぶと水音を響かせて、うっすらと見える対岸の
作業小屋の方へと、歩き去って行きました。
作品名:「舞台裏の仲間たち」 16~18 作家名:落合順平