「舞台裏の仲間たち」 16~18
「ねえねえ、・・・停めて。
凄いわよ、こんな景色を見るのって、私初めて!」
川面からは霧のように水蒸気が立ちこめていました。
その白い流れのあちこちで、濃緑色のわさびの茂みが揺れています。
見えたのは、安曇野わさび湧水群のわさび田でした。
「幻想的ねぇ・・・
凄い景色だわ。
ねぇ、これが、わさび田湧水群なの?。」
白い息を吐きながら茜が、岸辺ぎりぎりに立って
川霧の立ち込めるわさび田の景観に、その全神経を集中し始めました。
さっきまでのぼんやりとした眠気が嘘のように、今は目を輝かせて
頬を紅潮させていました。
茜を見ていて感心することのひとつに、
この直線的すぎるともいえる、余りにもストレートな感動の仕方と
喜怒哀楽の感情表現がありました。
この娘は自分の気持ちに装飾をつける前に、感動の方が先に
本能的に爆発をしてしまうタイプのようです。
落ちそうなほどにまで身体を乗り出して、
手が届きそうな距離のわさび田を、目をキラキラさせ、
ドキドキする胸を両手で抱え込みながら、いつまでも真剣な眼差しで
見まわし続けていました。
作品名:「舞台裏の仲間たち」 16~18 作家名:落合順平