小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

And Then ~すべては、そこから…~

INDEX|8ページ/11ページ|

次のページ前のページ
 

あすかを見やると、いつの間にか電話は終わってあちこち写真を撮っていた。

ふと、あすかが空を見上げた。

その姿がとても美しかった。

徳野は、無意識にあすかのその横顔を携帯のカメラで写していた。

2枚目を写そうとした時、フレームの中のあすかと目が合う。

ときめきは、徳野の心を不安定なものにさせた。

「あぁ〜。今、写したでしょう?」

あすかが怒ったふりをしたと思うと、すぐに満面な笑みを徳野に見せる。

「さっきのお返し」

と言って、徳野も笑った。

「やだ〜。今の、見せて?」

「だ〜め。君、消しちゃうでしょ?」

「え〜。ヘンな顔で写ってたら、なんかやだな〜」

「大丈夫、大丈夫。ちゃんと、綺麗に写っているから」

「ホント?じゃ、メールで送って」

「いいよ。札幌に帰ったら、送る」

「絶対?ホントに、絶対?」

「あぁ、絶対に」

「で、それがヘンな顔だったら、消去してくれる?」

「それはどうかな〜」

「え〜、なんか意地悪ぅ〜」

あすかが口を尖らす。

「あっ、その顔も貰い」

と言って、徳野は携帯をあすかに向けた。

けれど、あすかはそれをかわすようにして、徳野の腕に自分の腕を絡めた。

「ねぇ?一緒に撮ろうよ?」

と言って、あすかがシャッターを押す。

「見て見て?ちゃんと、綺麗に撮れたでしょう?」

腕を組んだまま、あすかが徳野に先程写したばかりの画像を見せた。

「そう?なんか僕の頭、見切れてない?それに、表情もちょっと……」

「意外に、細かいのね?じゃぁ、徳野さん、撮って?」

「いいよ」と言って、あすかのカメラでもう一度自分達を撮る。

「なんか、恋人同士みたいだね」

画像を見たあすかが、そう言って微笑む。

徳野はなんて言っていいのか分からず、ただただ笑顔を崩さずにいた。

フレームに収まった二人は、互いに頬を寄せ合い仲睦まじく写っていた。

この写真を他人が見たら、間違いなくカップルだと思うだろう。

いや、他人じゃなくてもそう思うに違いない。

「ねぇ?私達、他人から見たらどんなふうに見えるんだろうね?」

ふと、あすかが聞いた。

「勿論、それは……」

と言い掛けて、徳野は黙った。

恋人同士、という言葉を言いそうになったからだ。

自惚れる自分が、急に恥ずかしくなった。いつから自意識過剰になったのか。

「それは?何?」

突然黙った徳野を見て、あすかが不安そうな顔をする。

「それは……、兄妹とか、会社の同僚とか、かな……」

無理に取り繕ってはみたものの、不自然な応答は自分の心を窮屈にさせた。

「やっぱり、そうよね……」

あすかがそう呟いてから、無理に笑った。

そんなあすかを見て、徳野の心が痛む。

今日ここに来なければ、こんな思いも、葛藤もしなくて済んだはずだ、と。

けれど、こうして来てしまったのは、どこかで期待する自分がいて、それを見越してのこと。

でなければ、さっさと札幌に帰っているはずだ。

「ごめん……。なんか、気の利いたことが言えなくて……」

不器用な自分を弁解するつもりはなかった。でも、もどかしい気持ちがそう言わせる。

「やだ〜。なんで、徳野さんが謝るの?」

「それは……」

「私ね、彼とは不倫なの」

えっ?突然のあすかの告白に、徳野は驚く。

そして、あすかの横顔を覗いた。

もう何度目だろう。あすかの横顔を見るのは。見るたびに、あすかに惹かれていく自分がいた。

「驚いた?」

「い、いや……」

「こんな私、軽蔑するでしょう?」

「いや……、そんなことは……」

緩やかに流れる川を見つめながら、徳野は答えた。

「その彼と、別れようと思って……」

えっ?徳野はまた衝撃を覚える。

「ホントは、今日その話し合いをしようと思って約束していたのに、彼にずらされちゃった……」

あすかは小さなため息を吐いて、頼りなく笑った。

「その……、その彼とは、長いの?」

「もう2年になるのかな。よくある話で、上司と部下という関係」

「そ、そうなんだ……」

となると、歳は自分と同じくらいか?と想像する。

「私ね、彼と別れるために、転勤願いを出してここに来たの。ほら、遠距離だと分かれる率が高いっていうでしょう?なのに、彼ったら頑張るの。私が別れたい、って言ったら、もっと頑張るの。ずるいよね。彼も、私も……」

そう言って、あすかは雲一つ無い空を見上げた。

太陽はだいぶ傾き、もうすぐで夕方になることを知らせようとしていた。

「そ、そんなことは……」

徳野は否定をしようと思った。

けれど、思っただけで、そのあとの言葉が見つからなかった。

それに、あすかが求めている言葉が何かも分からない時に、恋に疎(うと)い自分が何かを言ったとしても、たぶんただの気休めか綺麗事にしか聞こえないだろう。

そう思ったら、数少ない言葉達が消えてしまったのだ。

徳野は、あすかが何か喋りださないかと窺(うかが)うようして言葉を待った。

そして、気づかれないようにあすかの横顔を覗いた。

ふと徳野は、ずっとあすかから垣間見るその淋しげな表情は、これが原因だったのかと気づく。

だからといって、自分にはその原因を取り除いてあげることなんか出来やしないだろう。

それに、あすかもそれを望んではいないはずだ。

けれど、どうしてあすかはそんなことを自分に話したのだろうか、とあすかをもう一度見やってから、そしてその視線を空に向けた。

蒼く澄んでいるはずの空が、くすんだ蒼に見えた。心がしんとする。

「ごめん……。ヘンな話……、しちゃって」

「いや……。僕で良かったら、いつでも話を聞くよ。君がイヤじゃなければ、だけど……」

「でも、彼女に悪いから……」

「友達として相談に乗る分には、男も女もないだろう?」

徳野は、あえて友達を強調した。と同時に、心がチクチクと痛む。

「そうね。友達なら、大丈夫よね」

「勿論」と頷いて、無理にあすかに微笑み掛けた。

「あっ、そうだ。君にどうかな、って思ってね……」

徳野は、思い出した、というような顔で、保子のお土産と別な袋をあすかに差し出す。

「私に?」

「気に入ってくれるか分からないけど、君が電話をしている間にプラプラしていたら、ちょうど見つけたんだ。ガラスで出来た猫の置物なんだけど、なんか表情が君っぽいというか、なんていうか……」

「え〜、私、猫っぽい?」

「いやいや、そんな意味じゃ……」

「徳野さんから見た私って、そんなんだったんだ〜。なんか複雑〜。でも、嬉しい。ありがとう」

さっきの淋しげな表情とは一転して、あすかに笑顔が戻った。徳野は安堵する。

「いやいや。お礼を言われるほどでも……」

徳野は照れて、頭を掻いた。

そして、あすかともっと一緒にいたいと思った。

自分がどこまで出来るか分からないけれど、もっとあすかの話を聞いてあげて、少しでも悩みを軽くしてあげたいと思ったのだ。

でも、もうタイムリミットだ。

徳野は腕時計を見た。

「そろそろ―――」

「行かないで……」

消え入りそうなあすかの声に遮られ、徳野は言葉を失う。