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And Then ~すべては、そこから…~

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少し早く着きすぎたかな……。

徳野はそう呟いてから、空を見上げた。雲一つ無い空は蒼く澄み渡り、太陽が燦々と輝いていた。

午前九時だというのに気温は高く、今日も夏日が予想されていた。

北海道と比べても仕方ないのだけれど、やはり暑い。

五月の中旬にもなれば当然のことなのだろう。

けれど、今北海道ではやっと桜が見頃で、少しずつ暖かくなってくる頃。

とはいえ、花冷えが続くこともあり、いくら花見が出来るからといって肌寒い日もある。

そんな場所から来ているのだから、やはりここは夏としか思えないのである。

9時半にあすかと岡山駅で待ち合わせをしていた徳野は、何度も腕時計を見やった。

時計を見たからといって、そんなにそんなに時間が早く進むわけでもない。

そんなことは分かっている。でも、そうしてしまうのはやはり緊張のせいなのだろう。

酔っ払っていたからとはいえ、あすかとこんなふうにデートというか二人で遊びに行く約束をするとは夢にも思っていなかったのだ。

保子以外の女性と出掛けるのは本当に久し振りのことで、徳野はその約束事をホテルに帰ってから少し後悔をした。

後悔といっても、保子に悪いから、とかじゃなく、自分自身の問題である。

別に格好をつけるわけじゃないけれど、ほぼ初対面といってもいい女性を、自分はちゃんと楽しませてあげられるのだろうか、と不安になったのだ。

そこで徳野は、ちょっと急用が出来たので明日行けなくなった、というメールを送信しようと、登録したばかりのあすかの名前を見つめた。

と、ふとあすかの悲しむ顔が脳裏によぎる。

考えすぎなのかもしれない。と思ってはみたものの、臆病な性格はそれらの行為を阻止しようと躍起になってまた言い訳を重ねる。

いや、ただ単に勇気がないだけなのかもしれない。

色んな言い訳を繰り返すことによって、自分の都合のよい逃げ道を作り出していく。

自分は、そうしながらその場を取り繕って今までやってきたのだから。

そしてまた、今も―――。

全てが言い訳で塗り固められた性格は、ここぞという時にも現れ邪魔をする。

だからなのだろう。未だ、保子との関係も踏ん切りがつかないまま、3年という月日が過ぎてしまった。

別に、ないがしろにしているわけじゃない。お互い、いい歳なのだから。

それに、結婚をするなら勿論保子しかいない、ということも分かっている。

今更、誰かを探して一から関係を築くことも考えられないからだ。

ずるさ故の言い訳は、いつまで続いていくのだろう。

そんなことを今頃考えている自分が、堪らなく滑稽でくだらなく感じた。

徳野は気を落ち着かせるため、浅く息を吐いた。

暑さは時間を追う毎に増していくようにも思えた。

「すいません。お待たせしちゃって」

ふと後方から声がしたのに気づいた徳野は、振り返る。

「あ…、いや……」

「だいぶ、待ってました?」

そうあすかに言われ、徳野は時計を見る。長針は20分を指したところだった。

「い、いや、僕も今来たところだったから……」

「そう。良かった」

そう言って、あすかが微笑む。

そのあすかの笑顔を見て、徳野はときめいた。

昨日とは明らかに違う柔らかな表情、そしてフェミニンに纏めたスタイルは、今日ここで会うはずだった彼のために用意してきたものなのだろう。

そう思ったら、何故か徳野は嫉妬を覚えた。

「どうしたの?私、なんかヘンだった?」

自分を眺める徳野に、あすかが恥ずかしそうに尋ねた。

「あっ、いや……。なんか、昨日と雰囲気が違うから、驚いちゃって……」

「そう?昨日は会社帰りだったし、酔っ払っていたからかも。それに、徳野さんと一緒に歩くんだったら、やっぱり釣り合う格好しなくちゃね。じゃなきゃ、徳野さんに悪いし」

と言って、無邪気に笑った。

「えっ?いや、なんか気を使わせてしまって、逆に悪いことしちゃったのかな」

「いいんです。それより、早く行きましょう?短い時間で、倉敷を回んなきゃいけないんだから」

そう言って、突然あすかが徳野の腕を自分の腕に絡めたかと思うと、駅へと引っ張っていくのだった。

えっ?あ…、あぁ……。徳野はあすかに連れられるようにして駅へと向かうこととなった。